〜龍と刀〜 帰還 ***** 月詠が巨大な防御結界『満月』が作るドームの中には、傷付いた者たちが気力の回復のために横たわったり、魔術で傷を治癒したりしていた。 「ねぇ、月詠さん?あなた休めてないんじゃないかしら」 月詠は、身に着けた輝く金色の腕輪を弄びながらも、常に結界を維持し続けているのだ。休め、と言っていた本人が一番休めていないだろう。 「気にする必要はない。ワタシは神族だぞ?この程度、苦にもならん」 「あなたはそうでしょうけど……月華ちゃんの体に負担掛かるんじゃない?だったら少し休みなさい」 「む……そう言えばそうなのだが、これを維持するためにはワタシが居なければ……」 紗姫の気遣いは嬉しいのだが、この『満月』は月詠が独自で編み出した魔術で、術式も独特。それに使用される魔力も神族の物で、引き継げる人間など居る方が珍しい。 「ん〜それなら居るじゃないか〜」 何やら携帯電話で連絡を取り合っていたらしい幸輔が言う。 「どこにだ?」 幸輔はいつも通りの笑顔で指を動かした。その指の先に居るのは−− 「この人たちだって、見習いだろうけど一端の魔術師だからね〜。全員の力を合わせれば魔力に関しては充分だと思うよ〜。どうかな〜?」 幸輔が提案したのは、ここに居る魔術師に共通の術式を流し、それに魔力を充て続けるという単純作業。 「確かに悪くないな……」 「それにね〜?そろそろこの状況を打破出来る人間がやって来る頃合い−−」 楽しそうに語る幸輔の言葉を遮るようにして地面が揺れる。 「な、なんだ!?」 「新しい敵でも来たんじゃないのか?」 「まだ傷が癒えてないのに……なんてタイミングの悪さだ……」 揺れの正体を分かっている一人だけが慌てず、あくまでも楽しそうに結界の外を眺めていた。 「何を隠してるんですか先輩……?」 「ふっふっふ〜。まぁ、見てれば分かるさ〜」 「この魔力……まさか少年よ、奴を呼んだのか?」 結界の外、減る事も無ければ増える事も無い魔物の軍勢。その中央、強烈な光とともに、そこ一帯が消し飛んだ。 「退けぇ雑魚ども!うっとうしいんだよ!」 再び。 次に上がるのは壮大な火柱。火柱、というレベルとは大きくかけ離れた、まるで全てを焼き尽くそうかとしているような炎の杭だ。 「あの炎は……師匠かっ!」 「おーい、みんな!師匠だ、師匠が来てくれたぞ!」 沸き立つのは十六夜の弟子たち。呆然と破壊の光景を眺めるのは紗姫と月詠。 「月華ちゃんのお父さん、だよね?」 「そう。『金鳳流』現頭首の鳳 十六夜さ〜。娘さんがピンチだよ〜って言ったら文字通り飛んできたんだ〜」 自分の娘が危機だ、というだけで協会から抜け出して来たのだろう。確かに十六夜ならやりかねない、と言うよりもうやってしまったのだが。 「……粗方片付いたら『満月』は解いても良いな」 一人で暴れる十六夜の勇姿を、内で眠る月華の意志に焼き付けながらそう呟いた。 ***** [*前へ][次へ#] |