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〜龍と刀〜
襲撃者T
この時期の風はなかなか冷たい。やはり上に何かを羽織って来るべきだっただろうか。

「うぅ、寒い……けど今戻っても面倒なだけだし」

あの空間は陽の扱いが酷くなる場所らしい。それよりも、琉奈があんなに素早く、かつ強固な魔術を使えた事に驚きだ。
考えてみれば分かる話だが、十六夜の妻という事は琉奈自身も何かしらの強みがある。彼女の場合は魔術に特化しているみたいだ。

「こうしてる間にも、どこかしらで戦闘が起こってるんだよな。狙いが俺なら、俺だけをピンポイントで狙えってのに……」

『永遠の闇』、あの組織の狙いは陽だったはず。それなのに襲って来ないという事は、他にも目的があって行動しているのだろう。陽を狙わない、別の何かが。
ふと、空を見上げてみる。そこにはいつもと変わらず輝いている沢山の星。そして、

「お、流れ星ってやつか。運が良いな」

空の彼方、光の尾を引いて移動しているのは流れ星……のはず。陽の知識の中の流れ星というのは、ほんの一瞬だけ輝いて落ちる物。だから流れ星が消える前に三回願い事を言うと叶う、という迷信が生まれたのだろう。
しかし、今ある流れ星は消える気配を全く見せず、尚且つこちらに向かって来ているではないか。

「何だよあれ……攻撃、か?」

近く、迫るに連れ、流れ星の持つ熱量が伝わってくる。衝撃に備え、身構える陽。
しかし、軌道は陽の頭上。飛行機が通過するような音と爆風がし、『金鳳流』道場の屋根の上でピッタリと止まった。そう思えば、次は異様な火花を振り撒きながら回転、そして、落下。

「!?」

中には魔術の講話をしているだろう三人が居る。その事が頭によぎった途端、陽の足は動いていた。
土足のまま踏み込み、そこに居た化け物の背中を見付ける。肥大化した獣の両腕を持った、熊のような化け物。
ここ最近の魔物と同じだろう熊は、雄叫びとともに剛腕を振り上げた。

「グオオォオォ!」

熊の巨体のせいで、三人の様子が見えない。
ゆっくりと重力に引かれて落ちる両腕。
白銀を喚んで対抗するにしても距離がある。どうすれば……。
そんな時、一筋の光が走った。それは熊の眼前に出現。

「結界……!琉奈さんが?いや、それはどうでも良い。今は……」

防がれた熊の腕が止まっている間に、ポケットに仕舞っていた召喚用の式神を握り締める。
陽の魔力を感知した式神に魔法陣が展開され、白銀の柄が姿を現す。走りながら抜き去り、熊の背中に袈裟斬りを仕掛けた。
キキキキ、と獣の肌ならぬ音を鳴らして刃を弾く。そこに傷は生まれていない。

「グルルル−−」

「またか。最近は本当に多いな……」

のっしのっしと方向転換した熊は、陽に対して威嚇の唸り声。しかし、それはすぐに収まり、何かを思い出したように目の色を変えた。

「俺が誰だか分かるみたいだな。それは確かに助かるが……」

「陽ちゃん!聞こえる!?」

熊の向こう、結界が張られたであろう場所から聞こえたのはくぐもった月華の声。どうやら無事ではいるらしい。

「ああ、聞こえるぞ。そうだ、ちょうど良い。月華、これがお前の立とうとしてる場所だ!しっかり見とけよ!」

「え?あ、ちょっと待って−−」

月華の言葉を遮り、陽は戦闘状態に突入した。

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あきゅろす。
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