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〜龍と刀〜
実験台……
道場には学校のジャージを着た月華がほうきを持っていた。見て分かる通り、掃除をしていたのだ。

「あ、お母さん!」

「今日はね、紗姫ちゃんと一緒に魔術を色々試してみたいと思うの。とは言っても、防御術式を組んで応用するだけ。攻撃魔術は十六夜さんからキツく言われてるでしょ?だから、掃除はもう終わって良いよ」

「はーい」

そんな親子の会話を聞きながら、陽は言われた通り道場の真ん中と思われる場所へ仰向けになる。逆らっても良いのだが、十六夜が唯一恐れていると言われる人物だ。後が恐い。

「ふぅ……何されるんだか……」

天井へと視線を投げ、一抹の不安を隠すように目を閉じる。眠気はあるのだが、眠る事が出来なかった。その理由は簡単、琉奈の魔術講話の内容が気になるからだ。

「はい、それじゃあ始めましょうね。まずは私のお手本をよーく見てるの」

琉奈の握った手が淡く光を宿すと、それはすぐに霧散。特に変化は見られないが……。

「紗姫ちゃん、私は今、何をやったでしょうか?」

ちゃんと問題形式でやるみたいだ。十六夜のように行き当たりばったりでどうにかするのではなく、相手が構成を理解するに重点を置いている。簡単に言うなら、教えるのが上手い。琉奈なら良い教師になれるだろう。

「え?あ、えっと……」

指名された紗姫は周りを見回したり、耳を澄ましたりしているが見当がつかないらしい。

「時間切れよ。月華は分かるかな?」

「あぅ……わかんないよ……」

顔を見合わせる二人に優しく微笑み、指を差した。
その先には……陽。

「陽ちゃんがどうかしたの?」

「何かしら……見る限りだと、何も変わってないけど……」

「うふふ。陽君、起き上がってみてくれるー?」

言われた通りに体を起こそうとしているのだが、動かない。頭の後ろに組んだ手も、伸ばした足も。

「ルナさん……何で俺に捕縛の魔術なんかを?」

「やっぱり魔術は実践してみないと分からない物だから、ね?教える側としても楽しんでもらいたいじゃない」

「ね?じゃないです。早くどうにかしてくださいよ……そして、月華と紗姫。お前らは何か良からぬ事を企んでるな?」

見えない力に縛られた陽は、身動きを取れずにもがいてみる。こんな実験台紛いの待遇を受けるくらいなら、一人で剣術の動きをおさらいしていた方が得かもしれない。
無理矢理引き剥がそうとすれば、締め付ける威力が高くなり、肉に食い込む。それを忘れていた陽は苦痛に表情を歪ませ、嘆願する。

「そろそろ本気でヤバいです……これってこんな使い方する魔術じゃないですよね?しかも遊びで使うレベルでもないです」

「もう、陽君ならもうちょっと耐えれるかなって期待したのに……仕方ないわね」

溜め息をする事でも無いのだが、琉奈は手を振って魔術を解除。陽は晴れて自由の身。
こんな仕打ちを受けてしまっては寝ているどころではない。

「ちょっと、外に行ってきます。新しい空気を吸いたいので」

「あぁ、待ってよー」

琉奈の声を無視し、締め付けられた部位を動かしながら道場を後にした。

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