〜龍と刀〜 後夜祭!W 鈍い衝撃音の後、全速力で教室へと逃げ込んだ陽と井上。特に井上は、命からがらといった感じでへたり込む。 「あれ、龍神?帰ったんじゃなかったの?」 教室に入り、呼吸を整えていると中島が陽たちの存在に気付き声を掛けてきた。 「おっす中島。暇になったから舞い戻って来た訳だが……クラスの片付けはもう終わったのか」 視線を巡らせたが、それぞれが適当に会話のグループを成している。床も綺麗なり、『文化祭!』と書かれていた黒板も改められ、『後夜祭!』へと変更されているではないか。 「当然だよ。みんな後夜祭を楽しみたい一心で、片付けも全力を尽くしたんだからね。二人ぐらい欠けてたくらいじゃどうにもならなかったよ」 「そうか。それで中島、一つ聞きたいんだがな?これは何で追われてたんだ?」 皮肉混じりの言葉をしっかりと受け止めると、親指で井上を指し示し、首を傾げてみた。 「おまっ、それお前のせいなんだぞ!龍神の代わりにスタコン出たら……あの様だよお!」 急に元気になった井上が今までの不満をぶちまける。 だが、陽はまるで相手にしていなかった。むしろこうなる事は想定内だ、とでも言わんばかりの澄まし面である。 「やっぱバカだな……乱入者が正式に認められる試合があるか?それと一緒だぞ」 「そうそう。しかも笑いすら取れなかったんだって?何しに行ったの?」 「お前らヒドいよ!そんなに俺を陥れるのが楽しいのか!」 そう言われた二人は顔を見合わせ、即答。 「楽しいに決まってるじゃないか」 「ああ。楽しいな」 「何なのこの人たち!?非道だよ、非情だよ、冷酷だよー!」 わざとらしく泣き声を上げてその場にうずくまる井上を無視して、話は進む。 「そういやぁ、誰が優勝したんだ?」 「いや、まだ決まってないよ。全ては後夜祭でね……龍神にも、まだチャンスはあるんだよ?」 「は?それはどういう意味だ?」 スタコンは終わりを告げていたのではなかったらしい。しかも、後夜祭が鍵、となると……。 「敗者復活戦、か……」 「その通り。それに、文化祭期間中に生徒会やらがアンケートを取ったり、同じクラスの人間に出る資格があるかを聞き回ったみたいだね。女子限定で」 「なぁ、やっぱり出なきゃダメか?人前は苦手なんだよ」 頭を抱えて座り込む陽。内心では棄権でもしてやろうかと目論んでいる。別に人前に出て披露してやるほどの事など無いのだから、と思っているからだ。 「まさか、出場しないなんて事は無いよねー」 「えぇー、する訳ないよー。あの龍神くんだよ?」 「だよねー」 そんな陽の気持ちが漏れだしたのか、クラスの女子陣にさり気なく責められてしまう。 「くぅ……人の気も知らないで……」 「まあまあ。良いじゃないか龍神」 ふと、中島が気を遣ったように耳元で囁く。 「たまには、みんなにも龍神の良いところを見せないとね」 「中島、お前……」 「あ、失敗しても良いんだよ?その分色んな人からの評価は落ちるだろうけど」 ただの嫌味だった。 [*前へ][次へ#] |