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〜龍と刀〜
侵攻軍
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夕暮れ時、闇にぽっかりと浮かぶ大穴には強い風が打ち付けている。轟々と唸りを上げて吹き抜ける風。眼下には小さな村らしき物が。
そしてその大穴から零れ落ちるようにして、漆黒の雨が降り注ぐ。しかしそれは雨と言うには大きすぎ、雨にしては数が少ない。もっと、物体的な何かだ。
空を切る音と、べしゃりと何かが潰れる音が複数。出現したのは異形。人の形を持たぬ、化け物。

「キシャアァァ!」

不揃いな牙を見せ付ける化け物は、まるで獲物を探す目で辺りを見回す。ある者は鼻を鳴らし、ある者は目を不自然な方向にギョロ付かせる。
そして、ニヤリ……と禍々しい笑みを作り、一斉に疾走。石を砕き、草を荒らし、木を倒す。

「あれ……?お父さんもお母さんもどこに行ったのかな?」

一人の少女。カバンを背負っている事から見て、学校帰りだろうか。家の中、いや、集落全体を感じ取ってしまった少女は外に目を向ける。
そして、有り得ない光景に尻餅を付く。

「キ、キ、キ、キキ……」

「ぇ、なに……来ないでよ……助けてお父さん、お母さん……!」

ぞろぞろと列を成して家に侵入して来る化け物たちに威圧され、身動きが取れない。当然だ。この状況でまともに動ける人間は、大人でも居ないだろう。

「キ……!」

頭を抱え込み、無意味だと分かっていながらも身を守ろうとする。

「まったく……ギリギリ、と言ったところか?」

不意に少女の体に受けたのは、熱気だ。
恐る恐る目を開けてみるとそこには燃え盛る木刀を携えた男−−十六夜が立っていた。

「おい、怪我は無いか?」

泣きじゃくる少女の頭に手を置き、宥める。まだ化け物は後ろに居るというのに。

「貴様らはこの子を結界の外へ連れて行け。……どうやって入ったんだか分からんが、もう大丈夫だぞ。この俺様が来たんだからな!」

「ぁ、あぶな−−」

背後から襲い掛かって来た化け物に振り向く事すらせず対処。木刀が化け物の脳天を貫いたのだ。
間髪入れず次に現れたのは白装束を纏った若い男性が二人。十六夜の指示に従い、少女の元へ。

「どうした?早く連れて行かないのか?」

「ですが、十六夜様は……」

「俺様を何だと思っていやがる?この『金鳳流』頭首、鳳 十六夜に向ける言葉では無い。この程度の雑魚相手に負ける訳がねえ」

ゆったりとした動作で懐からタバコを抜いて火を灯す。

「そう……ですね。愚問、申し訳ありません」

「だから良いと言っている。さ、行け」

「は!」

一人が少女を抱きかかえ、もう一人が魔法陣を描く。
そんな時だ。

「あの!」

「ん、何だ?」

「うーんと……えっと……」

少女が何かを言おうと必死に言葉を選んでいる。少女のその様子を無視して魔法陣は完成へと向かう。

「……ありがとう!」

完成と同時、少女が放った感謝の言葉はどこか月華を思わせるようで、

「礼なぞ、いらなかったんだがな……どうせ忘れるんだから」

転移の術式で三人が消えた後十六夜はポツリと呟く。握る木刀に力を込めて。

「だが、悪くない。それを泣かせた貴様らは……全員、一匹残らず、灼き払う!」

灼熱の炎をたぎらせて、化け物の群れへと突撃する。

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