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〜龍と刀〜
人間を目指して
休むと言っても、アスラには特にやる事もない。だから、腰にある剣を置く事も無ければ、鎧を外そうともしない。

「誰か居ますか?」

虚空に放った言葉に反応するように闇の底が膨れ上がる。

「グルルル……」

唸り声とともに漆黒に浮かぶのは複数の赤い光、それと何体かの獣。
虎のような姿を有する者も居ればトカゲのような者も。
バラバラな外見の中にも共通点が幾つかあった。まず、アスラと同じく鎧を巨躯の一部に纏っている。次に二足歩行である事、人間と同等の背丈がある事。

「そろそろ人語を介する時期かとも思いましたが、まだのようですね……」

整列した獣たちへ順々に視線を巡らし、即座に結論を出した。

「では、今回も引き続き戦闘訓練とします。一体ずつ、私の前へ。他の者は見るも良し、他の者と組み手するも良し。とにかく自身のためになる行動を」

背中から翼を顕現させ、一体の獣と向かい合う。腕を横に払うと、闇が形を変え、ドームのような形に。頂点には擬似的な太陽と思しき明かりが灯されている。

「さあ、どこからでも構いません……始めましょう」

剣は抜かず、構えも取らない。

「ガアアァ!!」

虎の姿をした獣が鋭い爪を擦り合わせると、そこからバチバチと火花が散る。
二度、三度同じ動作を繰り返す。アスラは黙って見るだけだ。

「ライ……ソウ!!」

言葉にはイメージを乗せやすく、自身が思い描く物を再現しやすい。人語を喋るという事は、能力の飛躍的な成長も意味しているのだ。
ビッシリと牙の生え揃った虎の口から発せられた言葉は、片言でイントネーションもおかしい。だが、それでも良いのだ。喋れるというのは及第点である。
紫電を装着した両爪。

「貴殿が一番、成長率が高いようだ……なら、私もそこそこ本気でやらせて頂きましょう」

地を蹴ってアスラへと迫る虎。狩る者の目で、アスラの喉元目掛けて突進する。
しかし、アスラはその程度の攻撃ならば魔術を使う必要も無く、

「!?」

紫電を真正面から、片手で受け止めた。
驚きを隠せない虎の腹部に強烈な蹴りを見舞う。鎧を着ている事をまったく感じさせない動きは華麗で、まるで踊っているかのようだ。
飛ばされた虎は、闇の床を何度か跳ねてようやく停止、したと思えば再び突進を仕掛ける。

「やはり少し、考える事を教えるべきでしたか……」

獣のように学習しない虎を目前に嘆息するアスラ。

「オオオオォ!」

振るったはずの爪が引き裂いたのは、虚空と数枚の黒羽。そこにアスラの姿は見当たらなかった。

「貴殿らは、人間に近付きたいのでしょう?ならば……同じ攻撃が効かない事ぐらい分かるはずですが」

背後。
気付いた時には遅い。虎の鎧を砕くように放たれた拳は、容赦なく身を打ち付ける。
鈍い音、それを聞き終える前にアスラは次の行動へと移行。

「次は、どなたでしょうか?人間に近付きたい者は……」

獣たちに人間の姿を持たせる事、それこそアスラの仕事なのだ。そして、盟主という者との約束でもある。

「だから、私は……」


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