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〜龍と刀〜
過去]V 決着
先に動いたのは月詠だった。両腕を肩の高さまで上げ、一言唱える。

「……『月弓(ツキユミ)』」

応じるように呼び出されたのは神々しく輝く一対の弓矢。豪華で派手な装飾をした弓に対して、質素な、しかし鏃の先端が鋭利な矢だ。それを弦にあてがうと、月詠の準備は完了らしい。

「堕ちても神族は神族、か。こんな膨大な魔力を浴びてたら常人なら卒倒するね」

「今更どうした、臆病風にでも吹かれたのか?」

「いや……良く分からない」

「何だそれは……後には退けぬのだぞ」

無言で頷き、ゆっくりと息を吸い、止める。覚悟は決めた。

「剣技……!」

吹き荒ぶ風。中心は達彦。
腰溜めになっている白銀の刃紋が淡く光を放つ。高ぶる魔力を、全身で感じる。

「我流、鎌風(カマカゼ)!!」

抜き去った白銀、脇差しは軌跡をなぞり、風を裂く。裂かれた風は形を成して一本、二本といつの間にか複数に。それはまるで鎌のように鋭く、貪欲に獲物を狩り取ろうと飛来する。

「薙ぎ、払え」

小さく紡がれた言葉と同時に、指先から眩い閃光。圧倒的な魔力と共に放たれた攻撃は、破壊の限りを尽くす。地面を抉り、木々を貫き、あまつさえ達彦の鎌風をも打ち消した。

「ふ……人間もなかなかやりおる」

迫ったはずの光の矢。標的を捉える事はなく、一直線に飛び、諦めたかのように消滅した。
そして、自分の胴体には十字の切り傷が生まれているではないか。ぐらりと揺らいだ視界。

「あぁ。負けたのだな、人間に……」

膝が崩れ、倒れた。そのまま仰向けになると、金色の瞳に達彦を映し、告げた。

「さあ、殺すと良い。早くしなければ、傷は……塞がり、動き出すぞ?」

「……判断を下すのは、僕じゃないみたいだ」

刀を下ろし、走って来た人間に目をやる達彦。月華の治療を終えたのか、木刀を携えた十六夜が向かって来ている。

「そう、だな。迷惑を掛けたのは、あの者の方か……」

ぐったりした様子で話す月詠を見ているのはどうも辛い達彦だったが、これも仕方ない事なのだ、と自分に言い聞かせた。

「俺様は、貴様を許さんぞ。たとえ元神族であっても、俺様の家族に手を出した時点でこうなる運命だったのだ」

強い口調で。心の奥底から、沸々と湧き上がって来る怒りを必死で堪えながら。

「本来であればこうして会話をしているだけで腹が立つ。今すぐにでも灼き殺してやりたいさ……!私利私欲に溺れた魔族を!」

ギリッと歯を噛む音と、木刀を地面に突き刺す音が今の十六夜の心の状態を切に表している。パキッパキッと鳴っているのは十六夜が無意識に放つ火の粉。

「今は!達彦の流儀に合わせて大人しくしているが!……達彦!もう良いか!?」

「……うん。この方には悪いけど」

「貴様は罪を犯した者を許しておけるその性格、さっさと直せ!」

轟々と燃える木刀を振り上げ、更に炎を注ぐ。

「これで終われるのだな……」

目を逸らす達彦、振り下ろす十六夜、待つ月詠、やっと追い付いた陽、そして−−。

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