pop'n music 【煙枝】ありのままの…… 夢中になってビアノを弾いていて、気がつくと時計は6時を廻っていた。 (腹減ったな〜。晩飯には早いが、どっか食いに行くか) スモークは立ち上がると、リビングに隣接しているエッダの部屋をノックする。 そして返事を待たずにドアを開けた。 「おい……。寝てるか」 あかりのついていない部屋で、部屋の主である少年は、ベッドの上で仰向けになって寝息を立てていた。 どうやらギターの練習をしているうちに、疲れて眠ってしまった様だ。傍らに愛用のストラトキャスターと、譜面が置かれていた。 ピアノを置いている関係で、リビングは防音仕様にしてある。その為、隣の部屋の物音が聞こえにくい。ピアノを弾いていたし、隣の部屋でギターの音が止まったことに気付かなかったのも仕方ないことだろう。 男は、静かに室内に入る。そして足音を立てない様に気を配りながら、エッダに近づいた。 スモークは彼の頭の側に立つ。 まだエッダは目を覚まさない。 窓からかすかに差し込む街頭の光の下、静かに眠っていた。 (よく寝てるな) スモークは彼の顔を、じっと見つめる。 エッダはかすかに唇を開き、静かに呼吸を繰り返している。18歳だと聞いているが、目を閉じていると、もっと幼く見えた。 そっと微笑むと、男は腰を屈め、エッダの頭に触れた。細くて柔らかい金髪に覆われた彼の頭を、優しく撫でる。親が子供にする様に、手の平も使って彼のあたたかさを感じ取るように、ゆっくりと撫でた。 (耳、ふわふわしてんな) 鹿族らしい、三角を描くように横に伸びた耳。茶色の柔らかくて細い毛に覆われたそれに手の平が触れる。 「ん〜……」 くすぐったそうにエッダが身じろぎをするが、目を覚ます様子はない。 子供の様なその様に笑みを深めると、スモークはもう一度少年の頭の先に手を伸ばす。そして再び頭を撫でる。 その手が、耳の上辺りで止まった。 止めた辺りを、指先で触れて確認する。 金色の柔らかな髪。 それ以外、見当たらなかった。 (角、ね……) スモークの顔から、笑みが消えた。 エッダには鹿族の男性にあるべき、『角』が生えていない。 そんな自分を恥じて、いつも着ているコートのフードに角を付けて、かぶっているのだ。 『まだガキだから、生えてないんだろう?』 子供が大人の真似をしているだけだ。 角が無い事を初めて知った時、即座にそう思って、笑いながらスモークは言った。 『……僕くらいの歳なら、もう生えてます。生えていないのは、女の人か、子供だけです……』 呟く様に少年は答えた。 『……すまん』 『いえ……、気にしないでください』 その時、前髪で表情はよく解らなかったが、自嘲的な笑みを浮かべていただろう。 そう感じたスモークは笑うのをやめた。 動物の角は、元々は雄同士が争う際に使うものだと聞いている。頭を突き出して、角をぶつけ合うのだと。 だから人型に近い今の彼らなら、もう必要がないはずだ。角が生えていない事を気に病む事はないのではないか。そうスモークは思う。 (けど、『気にすんな』って言うのは酷だよな……) 今は必要ないものとは言え、恐らく彼等にとって、角が生える事は重要な事なのだろう。大人の仲間入りを果たした証として。 (あの時、俺に話した後、すぐにフード被ったな、こいつ……) それほど辛い事である事は、容易に伺えた。 角が生えてこない彼を、周囲がどう扱っていたのだろう。どういう思いで故郷を離れ、森の奥で、たった一人で暮らしていたのか。 角が生えてこない事は、自分の所為ではないのに。 想像すると、胸が痛んだ。 深く溜息をつくと、スモークはゆっくりと彼の頭を撫でた。 手の平や指先から、エッダのぬくもりが伝わってくる。 静かに寝息を立てる彼を見つめていると、何故か心が安らいでくるのを、スモークは感じた。 何故だろうと少し考えると、すぐに答えが見つかった。 (フード被ってないからか……) 顔を上げると、彼の愛用のコートが椅子の背に掛けられているのを見つける。垂れ下がったフードの左右から角が伸びているのが、目についた。 恐らく、一人になったので脱いだのかもしれない。 一人になったから。 (俺は知ってるんだから、家にいる時ぐらいはコート脱いでろ。まったく……) 一緒に住む様になってから、もうすぐ1週間。意味の無い事なのだから、いい加減やめればいいのに。 スモークは苦笑した。 そして、それ故に、今の彼の『無防備さ』が、ひどく嬉しく思えた。 こうしてぐっすり寝ている姿を見るのも、嬉しかったりする。 隠し事のある者は、常に周囲に気をして、安らぐ余裕がないものだから。 (つまりは、少しは気を許してくれてる。そう……、考えていいのか?) 照れ臭くなって、スモークは苦笑した。 「ん……」 エッダが身じろぐと、スモークは彼の頭を撫でる手をどけた。 「あ……、スモークさ……ん?」 「起きろ、寝ぼすけ。飯食いに行くぞ」 「は……い………………、っ!」 エッダは飛び起きると、慌てて頭を押さえた。 どうやら、コートを着ていないことを思い出したらしい。 「あ……、え……」 慌てる彼を見て、スモークは苦笑した。 「いいから、さっさとそのコート着ろ」 (お前が気にするなら、今はそれでいい。そのうち、変わるだろう) 「俺は腹減ってるんだ。さっさとしろよ」 「あっ、はっ、はいっ」 慌ててベッドから降りると、エッダはコートを取りに走る。そして、わたわたと袖を通す。 (暑くねぇか、それ? もうすぐ春だろう?) と、からかいたい気持ちを堪えて、スモークは慌てる彼をおかしそうに眺めた。 おわり 【あとがき】 約5か月ぶりとなる、ポップン、もとい煙枝の新作です。 亀の様な更新の遅さで、本当にすいません。 七夕の日に、七夕関係ない話をアップする。 これぞ空気も季節も時代も読めない、わかはしクオリティですwww (七夕ネタはMUGENで考えているのですが、終わるんだろうか、この話orz) 本当は2月にはほとんど書き終えていて、最後が全然まとまらなくて、長い間ケータイの中で放置していました。 が、もうどうにもまとまらないので、諦めて公開しました。 締まりのない終わり方ですいません。 え〜、あらすじを読んで、Hシーンとか、情事の後の……を期待された方、本当にごめんなさい。 全年齢向けと説明を付けておきましたが、あのあらすじは色っぽかったかな〜と、ちょっと反省しています。 でも他にどう書けばいいのか、よくわからなくて、ああなってしまいました。 本当にすいません。 この話は前作の「I wait for…」よりも前の話になります。 最初は「I wait for…」の後日談になる話として考えていました。作曲に夢中になっているスモークに待ちくたびれてしまい、眠ってしまったエッダに対するスモークの話、として。 が、エッダは待ち続けるんじゃないかと思って、後日談ではなく、それよりも前の話となりました。 もとい、うちのエッダの設定紹介話でもあります。 うちのエッダには、角が生えていません。 角無しの、ケモ耳少年(18)です。 やはりあのコート、角生えてるとフードを脱着できないと思うのです。 それに、鹿の角は枝別れの数によって年齢がわかるらしく、三つ枝なら、4歳。 人間に換算すると、28歳くらいになります。 公式で『少年』と設定されている以上、28歳はないかな〜と、思いまして、あの角は実際は生えていない。そういう設定にしました。 ま、18歳を『少年』とする自分設定も、少々無理がありますねf^_^; あ、角が無いからと言って、本当は女の子だとか、そういう訳ではありません。 (この際、ニョタも有かな……え?) pop'n musicに戻る トップページに戻る [*前へ][次へ#] |