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式神の城
【日向×美姫】本日はブラックデー・1



【注意!】
・式神キャラは、日向さんと美姫さんしか出てきません。
・日向さんが情けないので、かっこいい日向さんが好きな人は読まないでください。
・美姫さんの出番は2からです。
・一部、韓国語での会話が出てきますが、雰囲気を楽しんでください。
 (発音があやしいです( ̄▽ ̄;))




 漂ってきた美味しそうな料理の匂いに、ぐ〜〜〜〜、っと腹の虫が反応した。
 依頼主への中間報告の帰りとは言え、駅前の通りに来てしまった事を日向は心から悔やんだ。
 間の悪い事に、唯今の時刻は昼の1時少し前。ランチライムの真っ最中である。
 飲食店の多いこの通りでは、ほとんどの店がランチタイムを実施している。街頭で持ち帰り用の弁当を販売している店もある。
(そう言えば、朝から何も食ってなかったな)
 この光景は目に毒だが、鼻にも毒だ。大神の眷属である彼の鼻は、店から流れてくる微かな匂いも、敏感に嗅ぎ取れるのだ。
 尚も腹の虫が鳴きそうになって、日向は自分の腹に手を当てた。
(買い置きのカップ麺、あと3個はあったよな、確か)
 手近な店に入って食事を取るだけの金銭的な余裕は、彼には無い。
 溜め息をつくと、日向は足を早めた。
 出来るだけ『食べ物』の事は考えない様にと、別の事を考える。
(何か仕事の依頼は来てないだろうか……って、光太郎は出かけてたか)
 光太郎はふみこに呼ばれて、自分が事務所を出る少し前に出ていった。ふみこがそう簡単に光太郎を帰すはずが無いから、恐らくは今頃、豪勢な昼食でもご馳走になっている事だろう。
(はぁ……、羨ましくなんかないぞっ)
 ぐ〜〜っ
 その考えを、腹の虫が否定した。
(くそっ、早く帰るか)
 一刻も早く腹の虫を黙らせようと、歩を早める。




 少し歩いたところで、その足が止まった。
(300円っ!?)
 小さな韓国料理店の入口に貼ってあった貼り紙に、吸い寄せられる様に見入る。
 その黒い貼り紙には、白いマーカーで大きく、こう書いてあった。


本日4月14日はブラックデー

チャジャン麺(大盛)
¥300


注意! 黒い服をご着用ください。



 その下に、メニューの大きな写真が貼られていた。
(たった300円で、しかも大盛の飯が食えるのかっ?)
 何度も読み返すが、確かにそう書いてある。
(しかし、『チャジャン麺』って何だ?)
 この辺りに住みついて長いが、あいにく諸事情により、韓国料理には詳しくない。
 写真を見ると、黒っぽいタレの様な肉味噌がたっぷりとかけられ、胡瓜が添えられた皿盛の麺料理が写っている。
(美味そうだな。ジャージャー麺みたいなもんか?)
 ジャージャー麺なら、以前食べた事がある。確か、胡瓜ではなくゆでたモヤシが添えられていたが、だいたいこんな感じだった。
 少々脂っこいが、コチュジャンやテンメンジャンが効いた甘辛い肉味噌の味を思い出し、日向の腹が再び鳴き出した。


(しかし、そもそも『ブラックデー』って何だ?)
 日向はガラス越しに店内を覗く。そして首を傾げた。
 覗いた先は、真っ黒な世界だった。
 スーツ姿やTシャツにジーパンなど恰好は様々だが、ほぼ全員が黒い服を着ている。そしてその全員が、チャジャン麺をすすっていた。
 異様に写る黒過ぎる光景は、何か怪しい組織の会合か、葬式後に参列者が食事を取る『精進落し』の席の様にも見えた。
 彼らを注意深く見ると、多くは韓国人らしき若者だった。
 ほとんどが友達らしき男同士・女同士で来ている。そして何故か、ほとんど全員向かい合わせで座らず、隣り合わせで座っていた。
 また、カップルらしき男女が2組ほどいるが、食事も忘れて熱心に会話を交わしているのがやけに目についた。




(どうする?)
 どういう日なのか今一つ掴めないが、とりあえず、飯が安く食べられる日である事はわかった。

 −−−−この時空腹が、彼の推理能力を8割方低下させた。

 黒い服着用については、いつもの恰好だから問題はない。
 ただ300円という金額自体は、彼には躊躇が生まれる微妙な額だ。
 だがしかし、それでたらふく食べられるのなら、どう考えても安いだろう。
「いらしゃませ〜。なめさまですか?」
 片言の日本語を話しながら、韓国籍らしい若い女性店員が店から出てきた。
「いや、俺は……」
 彼女は日向を見ると、笑いながら彼の恰好を、足先から帽子までぐるりと眺めた。そしてにっこりと笑って、何か韓国語を話した。
「チョッククチョギン!」
(? 何だ?)
 韓国語がわからない日向は首を傾げた。口調に邪気が無いので、悪口を言われたのではないと思いたいが。
「一人?」
「あ、あぁ」
「どぉぞ〜」
(ま、今日限りみたいだし、食べてみるか)
 にこにこと笑う女性店員に勧めれるままに、日向は入り口近くの席に腰を下ろした。
「チャジャンミョンでいですか?」
「あ、あぁ。それを頼む」
 聞きもせずに注文内容を断定されるとは、それ程自分は、食い入る様にあの貼り紙を見ていたのだろうか。そう思うと男は苦笑した。
(それにしても、麺の事を『ミョン』って発音するんだな、あっちの人は。確か美姫もそう言ってたような……)
「いらっしゃいませ」
 年配の女性店員が、水の入ったグラスをテーブルに置いた。
 彼女は、日向を一瞥する。そして、
「がんばってね」
 と、まるでおばちゃんが近所の子供を励ます様に、穏やかに優しく微笑んだ。
「はぁ、どうも……」
(何だ、俺はそんなに苦労している様に見えるか? いや、確かに苦労はしているが……。でも、ちゃんと服は洗濯してるし、裾がほつれたら繕ってるぞっ)
 貧乏性が板についてきてしまったのか。
 ため息をつくと、日向はグラスを口に運んだ。


 それから10分もしないうちに、チャジャン麺が運ばれてきた。
 料理の載った四角い盆が目の前に置かれると、サングラス越しに日向の瞳が輝いた。
 少し深めの大きな皿に、こんもりと盛られた中華麺。その上にたっぷりとかかった、光沢のある黒い肉味噌。添えられたキュウリの千切りの緑が、鮮やかによく映えた。
(美味そうだな〜)
 割り箸を勢いよく割ると、満遍なく麺とタレを混ぜ合わせ、口に運んだ。
(美味い!)
 ジャージャー麺は甘辛い味だが、チャジャン麺の方が甘みが強い。何か特別な味噌を使用しているらしく、見た目は黒いが、苦みはほとんど感じられなかった。平打ちの麺も、タレによく絡んで美味い。
(いい日だなぁ、ブラックデーって)
 空腹が手伝ってか、箸がすいすい進む。


 早くも半分ほど平らげた時だ。
「アンニョンハセヨ」
 声をかけられて、顔を上げると、若い女性が盆を持って立っていた。
(なんだ?)
 韓国語で何か話すと、女性は日向の目の前の席に座った。
 ニコニコと笑いながら、彼女は日向に話しかける。
「ジェ イルムン ゴ・スジョン イムニダ  ソンハミ モシッスムニダ マンナソ バンガプスムニダ」
 訳がわからず、とりあえず日向は、タレで黒くなった口元をぬぐった。


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初出 2008/05/05 Mixiの日記より



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