淡恋(客×ヒロ)
寂しさを紛れさせるには人の温もりが一番効果的だと知っていたから、俺はセックスに依存するんだろうか?
何が寂しいって、人から相手にされないから。だから、気を引こうとする。気を引くには身体で釣るのが一番手っ取り早くて、一番簡単だった。それが刹那的な温もりと刹那的な解放だとしてもそれでよかった。
明日、また別の人を見つければ良いだけだから。
それでも、拭えない寂しさはどうすれば良いんだろう?

「ふぁっ」
「良い吸い付き具合だ、ヒロっ」
男娼として働く俺は、客に騎乗位で揺さぶられていた。身体を売るのは他人の温もりが簡単に手に入るから。例えそれが仮初めだと分かっていても、求めずにはいられない。
腰を捕まれペニスが奥に当たり、苦しさを感じるほどに抉られて逃げたくなる。それでも快感を覚えている身体は貪欲で無意識に力が入り客のペニスから精を搾り取ろうと動く。
「はぁぁ……っ」
客の山菱さんが俺の乳首に歯をたてた途端、電流のように吐精感が込み上げてくる。
「あぁ、もう……イクっ」
「好きなようにイけっ」
山菱さんは優しくて経済力のある良い男だ。絶対女の人がほっとかないと思うのに、こうして週に一度は必ず俺を抱きに店に来てくれる。
優しくて暖かくて、絶対に堕ちない冷たい人。
俺は、多分この人が好きなんだと思う。だけど、俺たちの関係はあくまで買う側と買われる側。春を売る俺は、客から見たら最初からただの商品、道具だ。
ぐりぐりと山菱さんのペニスで最奥の前立腺を擦られて、俺ははしたなく精を撒き散らしてイってしまった。
「んあぁぁーーっ!」
「ヒロはいつも我慢出来ないな、それが可愛いんだが」
「あ、あ、ごめ……なさっ。山菱さんも、気持ち良くなって」
「気持ち良いよ。イク時のヒロの顔は極上だ」
俺は力の抜けそうな腕にしっかりと力を入れて、山菱さんに体重を預けないように必死だった。
「可愛いな、ヒロ」
「んんっ」
「俺もそろそろっ」
山菱さんはそう言うと一際大きく俺を穿つと、中のペニスをさらに大きくして、俺の中に暑い精を迸らせた。
余韻もなく、ずるりと抜けていくペニスを物欲しそうにヒクつきながら俺の後孔が山菱さんを締め付ける。
「こらこら、締め付けるんじゃない」
「あ……でも気持ち、いいでしょ? 」
よしよし、と頭を撫でてくれる感じが好きだ。そこに恋愛感情はないと分かってても、優しく俺を見る目が好きだ。その目を見ただけで胸がキュンとなる。
「時間内に終われなくなるだろ。シャワー浴びてくる。動けるか? 」
「大丈夫、です」
気遣ってくれる事がとても嬉しくて、とても切ない。
山菱さんにはちゃんと奥さんや子供さんも居て、俺にくれる優しさは性の捌け口にした後ろめたさからだと知っている。
奥さんが居ることも子供さんが居ることも、山菱さんに聞いた訳じゃないけれどそれが現実だ。
「ヒロ? シャワー浴びないのか? 」
「あ、浴びます」
なかなかシャワールームに来ない俺を心配して、脱衣場からひょっこりと山菱さんが呼んだ。
情事後の怠い身体を無視して俺はシャワーを浴びにいった。

身繕いを整えて、先に部屋を出るのはいつも山菱さんだ。振り返りもせずに部屋をあとにする背を見送るこの瞬間がこの仕事で一番イヤな時だ。温もりはあっという間に消えてなくなって寂しさだけが残る。
「……店に電話」
客が帰ったあとは店に電話するのが決まりだ。売りなんて仕事はヤバイ事件に巻き込まれる確率がぐんと上がるし、店からすれば働いている俺達ボーイの安全確認と客が時間を守っているかを同時に確認できる。時間を延長している場合は、その分も請求しなければならないから。
電話を終えて店に戻ると、俺は控え室に籠った。ちくちくと痛む心臓は寂しさと空しさを同時に伝える。客を取った後、決まって泣きたくなった。それでも他人の温もりを欲しがる俺は壊れているのかも知れない。
目を閉じて深呼吸。
何度も、何度も繰り返してようやく落ち着くことのできた俺は、あと一人、今夜は客を取ることになっている。
優しくなんて抱かれなくて良い。
少し乱暴位がちょうど良いかもしれない。
あ、でも痕を付けられるのは困るなぁ。他の客が見て不快な思いをする可能性があるものは避けたいし。
ぐるぐると、ぐるぐると。
逃げるようにどーでも良いことを考えるのは俺の癖なのか。

「ヒロ」
呼ばれて顔を上げると、マネージャーが立っていた。
「今日最後の客だぞ」
「はーい」
返事をして俺は新しい客のもとへ向かった。

[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!