夕陰草
影見えて05
どれくらい泣いたのか。
要は熱を持った目尻を、手で隠すように拭った。

「……みっともないな、大の男がこんなに泣くなんて」

小高い山の上から街の灯りを見下ろしながら、要は泣いていた。高宮の体温と、ふわっと頬を撫でる風が心地好い。

「いーんじゃね? ストレスは体に良くないしな」

高宮は要の頭から手を離すと、ジャケットの内ポケットから煙草を取り出して口に加える。ジッポで火を点ける静かな音と、葉の焼けるジっと言う音しか周りにはない。吐き出す煙が風に乗って消えていった。

「ありがと」
「いや、俺はなんもしてねーよ? 」
「嘘ばっか」
「ふっ、強いて言うなら場所の提供だけだろ? 」

そう言って不適に笑う高宮は最高に良い男に見えた。こんな奴を好きになれたら良かったのに。と思わなくはない。

煙草を燻らせながら、高宮はちゃんと携帯灰皿に灰を落としている。こう言うマナーが出来ているのも凄いなと思うのだ。

「高宮ってほんと世話好きだな」
「そーでもねーよ? 人は選ぶから全員にってわけじゃねーしな」
「そうなんだ? 」
「そうそう。光栄に思えよ」

こんな風に軽口にして、相手の負担にならないように出来るのは高宮がほんとに優しいからだと、要は思った。

洋兵との関係が突然終わって、要は呆然とするばかりで泣くことも出来ずに、気持ちだけを磨り減らしてきた。こうして、涙を流すことによって、気持ちの整理もその内着くだろうなと妙に楽観視出来てしまう。泣くって言うのは、健全なストレス発散方法だったんだなと感じた。

「……高宮」
「あ? なんだ? 」
「腹減った……」

ぷくくくっと空気漏れのような音をさせて笑いだした高宮は、携帯灰皿で煙草を消しながら、「車戻るか」と一言だけ言って歩き出す。要はまたそれを追うように歩き出した。

車に乗り込んで、高宮がエンジンをかける横でデジタルの時刻が目に入る。22時を少し回ったところだ。結構長いことこの展望台に居たらしい。

「付き合わせて悪かったな」
「いや、呼び出したのは俺だしな。んで、飯食いに行くのは構わねーけど、黒見は大丈夫なのか? 」
「…………」

高宮の気遣いは、泣き張らしたと解る顔のことだろう。今頃になって恥ずかしくなってくる。

「やっぱ顔酷い? 」
「まぁ、ウサギみたいだな」

高宮にそう言われて、さすがに大の男が泣き張らしたと解る顔をして明るい場所に行くのは憚られる。

「気にすんな、そんな明るいとこいかねーよ」

思案顔の要に、高宮は笑って答えた。



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あきゅろす。
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