夕陰草
影見えて09
身体が痛い。
洋兵の手が伸びてくる。
畏縮して動けない身体は簡単に捕まる。
熱いのか、冷たいのか判断出来ない瞳が、矢のような鋭さで要を見詰める。
『役立たずだなぁ、要』
うん。そうだね。
何も出来ない俺を捨てないでよ。
『ほんと苛つくわ』
ごめんね。
俺のどこが苛つかせるのか分からないんだ。
『俺の前から消えてくんない? 』
俺は、いらないの?
そんなこと言わないでよ、洋兵。
どうしたらいいの?
分からないんだよ、教えてよ。
手を上げないで、ちゃんと説明してよ。
洋兵。
おねがいだから怒らないでよ。
ーーようへい……。
手を伸ばして掴もうとするのは何だろう?
誰か、この手を取ってよ……。
「要くん! 」
要の意識は呼ばれたことによって急浮上してゆく。パッと目を開けると視界には大貫の顔があった。要の頬を濡らす涙を大貫の指が拭ってくれている。
「……あ」
「大丈夫? 」
ーー夢……。そうだ。仕事終わって、それでも落ち着かないから大貫の店に行って、彼の仕事が終わるまで待って飲みに誘ったんだ。沢山飲んだ気がする。多分、まっすぐ歩くのも困難になって大貫が支えて家まで送ってくれたんだ。そこからの記憶が曖昧で、でも大貫がここにいると言うことは多分心配して泊まってくれたんだろう。
「魘されてたけど」
「ごめん、起こした? 」
身体を起こすと頭がくらくらして重い。右手を頭に添えて俯くと、大貫が放れていく気配がした。
「起きてたから平気。要くんの可愛い寝顔見てたんだ」
キッチンから大貫が応える。冷蔵庫を開ける音がしてゆっくりと顔をあげると、コップに入った水が差し出された。「ありがと」と受け取って一気に飲み干した。
あれは夢だ。洋兵と思わぬ再会のせいだ。気持ちの整理は着いたと思っていたけど、あんなに動揺していた自分に驚く。
「……迷惑かけてごめん。あ、彼女怒らないかな? 」
「どうだろ? そんなことより何かあったんだね? 」
話を逸らそうとした要に、大貫は被せるように質問をぶつけてくる。要は咄嗟に瞳を泳がせた。
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