短編小説
Shutter.
カメラを構えて、撮りたい物を撮る。
目に留まった物、一つ一つを撮る。
気に入った風景、表情。
撮りたい物は山ほどあるんだ。
“撮れたかー?”
“アンタが動くんで、ブレたじゃないですか”
“お前の技術が無いんだろ、ほら見せてみろよ”
“ちょっと、デジカメじゃないから見れませんよ”
“不便だな”
“俺、写真家なんですけど”
本当は、ブレてなんかいなかった。
欲しかった写真は撮れた。
俺の好きな、アンタの顔。
“帰ったら速攻、焼き増しな”
“はいはい”
“カメラ、貸して”
“えー”
“うるせ。黙って貸せって”
“壊したら弁償ですからね?”
“弁償でもなんでもしてやるから。
はい、近付いて近付いて〜”
“は?自撮りするんですか!?”
“そう。はい、いくぞー”
“ちょっと、ちゃんとそういうモードあるのに……っ!”
“はい、チーズ”
“ カシャッ ”
「何だかなあ…」
ポケットから出し、眺める一枚の写真。
ピンぼけで、ブレていて、
写真としては、あまり良くない出来だった。
だけど、どうしてか。
「…こういう写真が撮りたいんだよな」
ピンぼけで、ブレていて、
なのに、写真から放たれる、不思議な存在感。
「こんなに最低な出来なんだけどな…」
アンタがいい写真撮るから
いなくなったアンタをまだ追っ掛けて
アンタみたいに下手くそな写真が撮りたくて
今もまだ俺は、シャッターが押せずにいるんですよ。
「俺の仕事、奪わないで下さいよ…」
帰って来て、愛しの人。
Shutter.
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