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短編小説
UretisiA.
携帯電話が、殺風景で暗い部屋に響き渡る。


いつもと同じ音量なのに、どうして今日はこんなにも大きく聞こえるのだろう。


どうして今日は、この電話に出たく無いのだろう。


電話の相手は、好きだけど愛してはいない大切な奴。


お互いを必要とした時だけ会う、そんな関係。

好きだけど、愛してはいない。

相手を思う感情は、欲求を満たすためだけであって、それ以外は何もない。


そう。
好きだけど、愛してはいない。


“好きか”と問われたら
“好きだよ”と返す。


じゃあそれは“愛してる”という意味で?

違う、そんな意味はない。

上手くは表せないが、“好きだ”でも“愛してはいない”


“愛されたい”とお互い想いつつ
何故今まで、ずっとこの関係でいるのか。


答えは簡単。
相手が自分を、今以上に求めないから。


“好き”は本当。
“愛してる”は嘘。

同じ様で違く、
似ている様で真逆。


いつまでこの関係を持つなんて、答えは出ない。

ただお互い、心にある“寂しさ”を牧らわすため。

哀れだと言われようと、止める気はない。

他人に言われて止められるくらい、簡単な事ではないんだ。





“UretisiA”


二人の間で生まれた、秘密の暗号。


好きだけど、愛してはいない、二人だけの暗号。




“いつかお前に、本当に大切な人が出来たら、まず最初に俺に電話をかけろ。
そしてこう一言、言ってくれ。
"UretisiA"と。

逆もある。俺に本当に大切な人が出来たら、最初にお前にかけるから”


いつか、そんな電話、お互いかける時が来るのかね。
なんて、笑って言った俺。


来るだろ、絶対。
と、笑って返すあいつ。



“ピーッ”

留守番電話に切り替わった音。


響いた。
殺風景で暗い、この部屋に。


止めろ、言うな、止めてくれ。

お前は俺を置いていかないでくれ。


“まだ、覚えてるか?
覚えてなくても、言っとく。
何度も聞いて、思い出せよ。

"UretisiA"”





その一言だけ言って、切れた電話。


その伝言も、お前の声も、

二度と聞くことは無いだろう。


だって、


“好きだけど、愛してはいない”

から。















UretisiA.


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あきゅろす。
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