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短編小説
Please say again.
「俺のこと好き?」

「あーまあ。でもお前自身より、お前の体の方が」

「最低だな」

「ははっ」


そう、セフレの中の一人でしかないんだ。
だから恋愛感情なんて、あるわけ無い。


なのに、


「……は?」

「だから、好きな人が出来た」

「嘘だ〜」

「……嘘なわけねーよ」


コンタクトを外したばかりで、視界がボヤける。もう一度入れ直そうかと考えたが、面倒臭くて止めた。

久しぶりに会って、飯食って俺の家に来て、いつもの流れでセックス。

少し疲れたから、休んでもう一度再開しようとしたのに、唐突に告白してきた。


「誰?」

「え、何が」

「お前の好きな人って奴」

「何、気になんの?」

「多少」


多少っていうか何て言うか。
何で今更好きな奴なんて作ってんの、なんて馬鹿らしい発想が出たんだ。


「高山。同僚の」

「ノンケ?」

「だろうな。最近まで女と付き合ってたらしいし」

「うわー。告白すんの?」

「まあ、いつか」

「チャレンジャーだな、お前」

「うるせー」


ゲラゲラと笑いながら、ベッドの横に置いてある煙草を取り、火を付けた。
悔しいが、コイツの煙草を吸う姿は、格好いいと感じてしまう。


「あれ?」

「何?」


いきなり立ったかと思えば、いきなりYシャツを着だした。


「帰んの?」

「おう」

「早くね?」

「まあ、好きな人いるし」


何処の乙女だ、なんていつもなら突っ込む筈なのに、今日は何故か口に出せなかった。


「もしかして、」


もうしねーの?なんて言うと、さっきまでYシャツのボタンを締めていた手が伸びてきて、くしゃりと俺の頭を撫でた。


「もうおしまい。好きな奴が出来たから、セフレも作んない」

「そんなの、報われなかったらどうすんだよ」

「分かんねーよ。もし駄目だったらまた戻ってくるかもしんねーわ」


何でお前はそうも都合良く生きようとしてるんだ。とは言えず、とりあえず黙っておくことにした。


「……マジで言ってんの?」

「大真面目。だから、お前とするのも今日で最後」



Yシャツ締め終えて、吹かしていた煙草を灰皿に押しつける。


「どうせお前のことだから、セフレなんかいっぱいいるだろ?」

「いるけど…。何だよ、その言い方」

「悪い。悪気はねーからな」



床に落ちていたスーツを拾い上げ、素早く着ると玄関へ向かった。



「隆元、」


コイツの名前をセックスの時以外に読んだのは、今日が初めてかもしれない。


「何だよ?」

「…………」


まるでお気に入りのおもちゃを無くしてしまったかの様な気持ちになる。

何で。だってコイツはただのセフレなのに。何人もいる中の一人なのに。


「……好きな奴、頑張れよ」

「…………!」


柄にも無いセリフを吐いて、自分でも発言を間違えたことには気付いている。畜生、そこはあえて顔に出すんじゃねーよ。


「……じゃあな」

くるりと背中を向けて手を降り玄関を後にしようとした。


「健っ、」


ぐいっと引っ張られて、次の瞬間には唇が触れ合っていた。
深くは無いけど、気持ちが良かった。


「………ん…はっ」


唇と唇が離れると、にっこりと微笑んだ。


「お前だったら、好きな奴出来ればすぐ落ちるだろ。だから、早く本命作れよ」


ポンポンと優しく頭を二回叩いた手。大きくて骨張っていて、好きだった。



「じゃあな」



ドアが開き、かと思えばすぐに閉じた。

小さくドアの閉まる音が聞こえて、鍵をつけてすぐに寝室へ戻った。



「…………」


寝室にあるテーブルに、灰皿と、押し付けられた煙草が一本あった。
押し付けられた煙草から、細い煙が出ていて、さっきまでアイツがいたことを証明している様に見えた。



――好きな人が出来た。

「………はっ」


充電器に刺していた携帯を取り、すぐにアドレス帳を開く。
フォルダ分けされている中で、沢山の男の名前が書いてある中から、アイツの名前を探し出す。


“削除しますか?”と書いてある画面にOKサインを出すと、処理中の文字から、完了しました、という画面に変わった。


もう、かけない番号は要らない。
もう、関係無い奴は知らない。




「…………」



だって、アイツは、ただのセフレだから。

愛って何?好きって何?
何も生産しない俺らにとって、愛って何?


ただ闇雲にヤって、お互いを必要な分だけ求める関係じゃ駄目なのか。

好き、だなんて言葉はただの言葉に過ぎないから。
もし言われたって、お互いの存在を確認する、一つの言葉に過ぎないのに。


なのに、




削除した後で、小さく胸が傷んだ、気がした。
小さく、それは小さく。
胸に小さなトゲが刺さったみたいだ。ちくちくと、痛む。



発信履歴に、立て続けに並ぶアイツの電話番号。

受信履歴には、アイツ以外の奴の電話番号だけが並ぶ。


ああ、そういや


「アイツから電話してきたことなんて、そんな無かったんだ…」




気付いたら押していた9つのダイヤル。


会いたい、なんて。
好き、なんて。


そんな感情は持ってない。

求める関係じゃない。
満たす関係なのに。





ヴーヴーと、手の中で小刻みに揺れる携帯。



メールだった。


アドレスを見たけど、アルファベットと数字が散らばるだけで、誰のなんて分からない。

だって俺の知っている奴らは皆、契約した時のままの奴ばかりだから。



『もしかして、俺忘れ物してない?』







このメールは、もしかしてアイツから?




胸が高鳴る。


昨日も一昨年も、名前も知らない奴と寝たのに。


もしかしたらそいつらの忘れ物かもしれないのに。




部屋を見渡すと、テーブルに黒いジッポが置いてあった。


忘れ物はきっとこれだ。




―――でも一体これは誰のもの?






気づけば手は勝手に動いていた。


何度も押していた9つのダイヤル。受信履歴には決して残っていないダイヤル。



絶対二度とかけないと思っていた、アイツに。




プルルルル……


呼び出し音が耳に響く。

ああ、早く。
ああ、直ぐに出て。




「…もしもし?」
「俺だけど………」




言わなくてはいけない。


“忘れ物をしたかって、メールはお前が送ってきたの?”



違う、それじゃない。


俺から、お前に、

伝えたい、言葉があるんだ。


「俺っ…………」





返事は分かっているけど、お前から、俺に、

「お前のこと、」







聞きたい言葉が、あったんだ。






















Please say again.

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