キミのトナリ
A
「そういえば、霧島朔弥クンだったかしら。随分仲良くしてるのね。」
思いもよらない朔弥の名前を聞き、思わず母を見上げる。
「彼も他の子と一緒よ。あなたみたいな、不幸を招く人間なんて、誰も好きじゃないわ。」
その一言で、全て支配される。
グラグラと足元が揺らぐような酷い眩暈がした。
なんで朔弥のことまで知ってるのか不思議だったけど、この人がいろいろ調べてここへ来てるのはいつも通りだったと思い出す。
どこまで知ってるのだろう。
怖い‥‥、怖くて、逆らえない。
「友達なんて、あなたには必要ないでしょ?」
電話があった時点で、何となく朔弥との事がバレてる予感はあった。
だから‥‥、
タイミングも良かったんだけど、あの傘も返して朔弥を諦める準備をしたんだ。
僕は、どうなってもいい。
だけど…朔弥や朔弥の家族の迷惑になるのだけは絶対に嫌だ!!
僕に出来る事…それは、この人に従う…ただそれだけ。
「…わかり…まし…た。」
朔弥…ごめんね。
せっかく僕の事好きになってくれたのに、ごめん。
搾り出した声はかろうじて母にも届き、満足そうに笑った。
「じゃあ、また連絡するわ。」
バタンと音をさせ玄関のドアが閉まった瞬間、膝からガクンと崩れ落ちる。
完全に打ちのめされてしまった。
心の中が絶望感と喪失感でいっぱいで、目の前が真っ暗だ。
全ては母の望み通りに。
あの人は、いつも僕から大事なモノを奪っていく。
それでも、母を恨む気が起きない。
母が可愛そうな人だって、知っているから。
恨んでもどうにもならない。
「朔弥、…お願い、嫌いにならないで。」
悲しくて、悔しくて、情けなくて、小さな悲鳴みたいな、声にならない声で泣いた。
こんな僕でも、大事な人達を守れるのかな?
せっかく朔弥と仲直り出来たのに。
また、怒らせちゃうかな。
この気持ちだけは何があっても諦めたくなかったのに。
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