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キミのトナリ
独りの夜
―柊 side―

「今度再婚することになったのよ。それで彼がね、どうしてもアナタも一緒にって言うの。」

母がこの家に戻って来たのはいつ振りだろう。
僕の中では、かなり過去の事で思い出せない。
父が帰らなくなり、離婚したと聞かされてからしばらくしたある日、銀行のカードと真新しい携帯電話、これからの連絡方法や生活面の事を指示する簡単なメモ。
それだけ置いて、母もこの家には帰らなくなった。
最初から本当の家族になれなくて、父も母も僕もずっと無理してた事に気付いていた。
だから、この家に1人で残されて寂しさより、ホッとしたんだ。
こうする事で、2人とも幸せになれるならそれで良いと思った。

「分かってるわ、あなたが私と一緒に暮らすのが嫌だって。私も嫌だもの。」

白い靄が頭の中にかかってるみたいで、ボーっとする。
なんだか夢の中にいるみたいだ。
もしかしたら、今まで幸せな夢を見てて、今が現実なのかな?
久しぶりに目の前に現れたこの人は、本当にその人なのか、この人がわざわざ来てまで何を話しているのか少しも理解が出来ない。

「でも、しょうがないのよ。せっかく掴んだチャンスをみすみす無駄に出来ないじゃない。」

もしかして、この人と一緒に暮らすことになるの?
拒否したくて口を開くが、その間も与えられない。そして、母はもっと恐ろしいことを僕に告げた。

「ここ、来月で退去しないといけないの。建て替えるんですって。だからここにはもう居られないのよ。」

いきなり崖から突き落とされた気分になる。
そんな僕の様子に、母は満足そうに笑う。
この顔を何度も見た。
この人は、僕が笑うことを許してくれない。

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