キミのトナリ C −朔弥 Side− 「柊さ、さっき早退させたから。」 昼休みに夏樹がいきなり来てそう言った。 どうやら体調が悪いらしい。 昼休み具合悪そうにしてたらしく、強制的に帰らせたと言った。 なんとなく最近元気がないように感じたのは、勘違いじゃなかったのか? アイツの事だからずっと我慢していたのかもしれない。 一番近くにいるのに、気付いてやれなかった自分に怒りが込み上げる。 「一人で帰らせて平気なのか?」 「大丈夫そうだったから帰らせたんだよ!」 棘のある言い方が気に入らない、けどコイツだって柊の事大切に思ってるんだ。そうされるのも理解はできる。 柊の具合が心配でたまらないが、長年付き合っている夏樹の判断だ。 悔しいが、今は俺より柊を理解している。 「ってかアンタさー、マジで柊の事本気なんだよね?」 「やーね!なっちゃん、この子は超本気よ!!」 一緒にいた敬吾が間に入って来て、勝手に答えた。 質問の意図は分からないが、そんな解りきった事を今更答える気は無い。 「ウルセー!オマエに聞いてねーよ!!」 「イヤーン!!なっちゃんコワァイ!」 最近柊が二人の仲が良くなったとか言っていたが、俺には全く興味がない。 柊は無事に一人で帰れたのか?途中で力尽きて倒れたりしていないだろうか?家に帰っても一人じゃねぇか。 クソッ!!今すぐに顔を見ないと落ち着かねぇ。 ただでさえ焦って腹立ってんのに、二人のやり取りが余計苛立たせる。 椅子から立ち上がった俺の腕を掴み、夏樹が「行くな!」と制止する。 「ちゃんと寝てるように言っといたから、行くなら明日にしてよ。」 もし、今俺が行ったら… きっと柊は気を使ってゆっくり休むなんてしなくなる。 アイツはそういう奴だから。 だから行かない方が、柊の為になるんだろう。 今俺に出来ることは、不本意ながら夏樹の言葉に従う事…なんだろうか。 仕方なく黙って俺が椅子に座るのを確認すると、掴まれた腕が静かに離される。 「そういえば朔ちゃん、アナタ達ってどこまで進んでるの?」 「ハァー?」 何だよその唐突な質問は? 重苦しい空気を破るような敬吾の唐突過ぎる質問に、さすがの夏樹も呆れ顔だ。 「だってー朔ちゃんは食いしん坊だからすぐ食べちゃうんだもん!」 「…ッてねぇよ。」 「エッ?何?」 「ヤッてねぇよ!大事にしてんだ!!悪いか!?」 欲求不満をさらに煽られ、怒りが頂点に達する寸前で 「ねっ!朔弥は本気だよ!!」 吐き気がする程ニコッと笑い、それを夏樹に向けた。 向けられた方もそれで納得したかのように、不思議とさっきまでの刺々しさを消して行く。 敬吾はワザと俺を苛立たせて、夏樹に本心を聞かせようとしたんだ。 相変わらず他人の事は分かるくせに。その嗅覚をお前自身に生かせよと言いたくなる。 コイツは他人の事ばかり見え過ぎて、自分がまるで見えていない。 「フン。」 この二人…気に入らない。 視界から外そうと視線を移動し、何気なく隣の空席に目がいく。 アイツは今頃どうしているだろか? ちゃんと寝ているのか? 一瞬、敬吾のせいで消えかけた不安がまた甦る。 いつの間にか授業が始まり、敬吾たちの姿がなくなってからもずっと、いつも隣に居るはずの柊を想いながら、空らっぽの席をただ見つめていた。 [前へ][次へ] [戻る] |