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Prelude 6


「…え、どういうこと?」

リルムに連れてこられた部屋に入ったセリスの目に、夕暮れに差し掛かった日の光を浴びたまぶしい白が広がっていた。

「うん、だからね。今夜やる完成披露パーティにこれを着て出てほしいの」

そこは、リルムに宛がわれた3間続きの部屋だった。
リルムがアウザー邸に来た時に使っている客室、さらに隣に客室。その奥にはリルムがいつでも使えるようにと配慮されて新設されたシャワールームがあった。

そのリルムの使っている部屋とシャワールームの間にある部屋の壁に、真っ白なドレスが飾ってあったのだ。
南向きの窓から差し込んでくる日の光で、やや黄みがかって見える。

「アウザーさんがね。惚れこんでた女優のために昔作ったドレスをくれたの。でもリルムには大きいんだよ…セリスおねーちゃんなら、綺麗に着こなしてくれると思って」

セリスは壁に掛けられたドレスに近づき、しげしげと眺めた。

オフショルダーの袖はふんわり可愛らしくふくらんだパフスリーブ。その下にはやわらかなジョーゼット生地の長い姫袖が下がっている。
身ごろには高すぎず低すぎないウエスト位置でV字に切り替えが入り、その切り替えから下のスカート部分にはたっぷりとギャザーを寄せて、教会のベルのような優美なラインが出されていた。

「綺麗なドレスね…」

「背中のデザインも素敵なんだから。アウザーさんが今風に直しに出していたのを、取りに行ってもらったんだよ」

リルムはセリスの隣に立ち、手をつなぐ。

「セリスおねーちゃんがこれを着て、リルムの絵のお披露目に立ち会ってくれると嬉しいんだけどな」

つないだ手を遠慮がちに振り、照れくさそうにリルムは言う。

「けっこう大きな絵だったし、今回のは本当に頑張ったんだ。アウザーさんも二つ返事で派手にお披露目やってもいいからねって。せっかくだし、盛大に祝ってほしいな」

「まるで赤ん坊を迎える時みたいね。光栄だわ」

セリスはリルムの細っこい手をきゅっと握り返した。

「リルムは絵のおかあさんだからね!そりゃ、子供がうまれたら自慢したくもなるでしょ」

得意げに胸をそらすリルムを見て、セリスはこくりと一度うなずいた。

「わかった。お言葉に甘えて、お借りするわ。昼間にティナと歩きまわって汗をかいているから、先にシャワーも借りるわね」

「…着てくれるの?わあ、嬉しい!ありがとう!じゃあ、シャワー終わったら教えてね、お化粧もリルムがするから!!」

リルムが「シャワーはこっちの部屋にあるからね〜!」とぴょこぴょこと嬉しそうに跳ねると、セリスはまたクスッと笑ってシャワールームに入って行った。

ぱたり、とシャワールームのドアが閉まる音を聞くと…

「…よっしゃあ!!」

リルムはひとり、ドレスの横でガッツポーズを決めるのだった。



小説執筆者様/ふかださま
夜の隙間

小説公開日/2011年08月15日

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