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Prelude 5


アウザー邸の庭は、リルムをはじめとする仲間たちの往来で騒然としていた。

「クポ、この花はちぎってこっちに入れる、この花はこっちにまとめて…クポー」
「おーい、ゴゴ!お前ちょっとセリスの真似しろ」
「カイエーン、こっちにお花切って活けて!あっ、ガウそれは食べちゃダメ!!」
「やべ、これ死ぬほど重いぞ!!ウーマロ呼んで来いウーマロ」
「兄貴、大変だ!あの植木のところにナナナナ」
「ナッツイーターなんて今はほっとけ、それよりそのテーブル落とすなよ」
「やだ、芝生に穴開けないで!!アウザーさんに怒られる!!」

それぞれが屋敷と庭を行ったり来たりするにつれて、平らな芝生だけが広がっていた庭がリルムのセンスでだんだんとパーティ向けに装飾されていった。

パーティの支度の指示に夢中になっていたリルムがふと庭から見える邸内の柱時計に目をやると、あっと声を上げた。
セリスが屋敷の玄関に荷物を置いて出てから、かれこれ1時間半ほどが経とうとしている。
さんさんと輝いていた太陽も、物憂げに傾き始めていた。

「大変!そろそろセリスおねーちゃん達が戻ってきちゃう!!」

一瞬ぎくりと固まる仲間たち。リルムはさっと右手を挙げて、注目させた。

「みんな、準備はいい?このあとは段取りしたとおりにね!リルムはおねーちゃん達が来たら、そっちの支度にとりかかるから」

その場にいた全員がそれぞれうなずいて作業に戻ると、リルムはうなずいて庭からひょいと室内に戻り、アウザー邸の玄関へと向かう。
足早に邸内の廊下をんで玄関の大きなドアを開けると、ちょうど通りから2人の女性が楽しげに話しながらこちらへ向かってくるのが見えた。

リルムは赤いベレーを被りなおし、バルーンパンツについた芝の切れ端をパッパッと手で払い落とす。そして両手で頬を挟んできゅっと上げ、パンと軽く叩いた。
すっと息を吸い込み、玄関ポーチに出る。2人の声が近づいてきたのを確認して、ぱっと駆けだした。

「わーい、おねーちゃん達!おかえりなさ〜い」

無邪気に手を振りながら2人に駆け寄るリルムを見つけ、セリスがにこにこしながら話しかけた。

「リルム、しばらくぶりね!どう、絵は進んだ?玄関の内側に、あなたのお使いの品を置かせてもらったんだけど」

リルムはティナにちらりと視線を送ると、すぐにセリスの手をとった。

「うん、ありがとうねー!お使いもすごく助かったの!画布が足りなくなっちゃって、でもアウザーさんは今いないから買いにいけないし…ね、入って入って!見せたいものがあるの!」

元気よく答えると、リルムは両手でぐいぐいとセリスの右手を引いて屋敷の中に入るよう促した。
「えっ、あっ、ちょっと…わかったわかった、お邪魔するから」
リルムの様子にやや慌てるセリス。今度はその背中に回り込み、「ささ、入って入ってー」と押し始めた。
彼女たちが屋敷の奥へ入ろうとした瞬間、リルムはぱっと振りむいて、ティナに向けてぱちりとウィンクを送った。

チャーミングなウィンクを確認すると、ティナはうなずいて玄関の横を通りぬけ、先ほどセッツァーに引き込まれて入った勝手口から屋敷の中へと入る。
リルム達が歩いて行った廊下とは反対の方へと、軽い足取りで向かう。
彼女の気持ちの表れのように、若草色のポニーテールが歩くたびにふわふわと縦に揺れた。



小説執筆者様/ふかださま
夜の隙間

小説公開日/2011年08月15日

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