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青蓮SideStory
14


 黙々と歩く俺達とは対照的に、前を歩む2人はずっと談笑していて。

 目的の紅葉には目もくれず、立て看板や石碑等を見つける度に、立ち止まってはなんやかんやと話し合う姿はさながら修学旅行客のようだった。


 そういや青蓮中等部の場合、例年通りであれば中2の冬に大本山で体験修行3泊4日の旅となるはずで。

 今のところ何も聞いては居ないが、間違いなく俺も引率で参加せざるを得ないんだろう。


 俺達が中学生の頃は、修行の辛さに挫折して途中で脱走する奴らもいて。

 それに便乗した蓮見や俺のグループも山を下りてみたものの、田舎過ぎて何もない門前町にがっかりしてUターンした覚えがあった。

 そんな俺達が今度は引率の立場だから、時代の流れと言うのは侮れない。




「あれ?なんだろ、あの人だかり??」

「ほんまや、ちょっと行ってみよか??」


 急に足を止めた相川のその声に、はっと我に帰れば。

 その隣を歩く佐藤も、相川の指差す方をじっと見つめていて。

 後ろを行く俺達に一言の相談もなく、さっさと横道にそれる2人の姿に苦笑するしかなかった。


「もしかしてお前の言う目的地ってあそこなのか?」

「うーん、半分当たり……かな?」


 とりあえず行ってみようと急かす智史に、引き摺られるようにして向かったそこは。

 いわゆる手水舎(ちょうずや)──参詣者が身を清めるために手や口をすすぐ手洗い場だった。


 大抵境内に入ってすぐの参道脇にあるそれが異常に遠かったのは。

 本来、参詣する時は正門から入るのが普通なのに、俺達は駐車場傍の通用門から入山したからで。

 参詣ルートで言えば、やっとスタート地点に辿り着いたという事だ。



「へぇえ、ここの手水って湧き水使ことるんやぁ……」


 龍を模した水口から出る水を柄杓で掬い嬉しそうに手を洗う相川の姿を、目を細めて見つめていた佐藤がふと傍にある立て札を読み始めた。


「えぇっと……○○山霊泉『回帰の水』
 戦国時代この地方の豪族が旗揚げ前に当寺でご祈祷された際、この湧き水で身を清めたものだけが無事に帰還する事が出来たとの言い伝えがある……らしいで?」

「って事は、水盤の底にお金が沈んでいるのはお賽銭みたいなものかな??」

「そうかもしれんなぁ……?
 今では旅の安全を願う人だけやなくて、新婚さんや同棲中のカップルにも人気やって」

「えぇっ!?どんなに相手が浮気しても、最後は自分の元に戻って来ますように……って事なのか!?」

「まさか浮気するの前提で、わざわざ訪れる夫婦やカップルなんか一組もおらんやろ!?
 そうやなくてやな、出先で怪我なんかせんと毎日無事に帰ってきますようにって事とちゃうんか?」


 焦った声で浮気・復縁説を唱えた相川に、少々呆れた声で佐藤が訂正すると。

 心底安心したと言わんばかりに大きく息を吐いた相川は。


「よっ、良かった…っ。手を洗った以上、わざと浮気しないといけないのかと…っ」

「あほかーーー!!
 勘違いでうっかり浮気なんかしたら、ほんまに承知せんでっ!!」

「そんなの僕だってしたくないよーー!!」


「「………」」


 人目も気にせず痴話喧嘩を繰り広げるコイツ等と、他人のフリをしてもバチはあたらないよな?

 示し合わせたように視線を合わせた智史と目だけでそう会話して、俺達は少しづつ後退した。



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あきゅろす。
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