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ショート
意味が違う(仙流)
着替えようと部室のドアに手を掛けた所で、女性に呼び止められた。
「流川ー」
憶えのある声に振り向けば、声の主はマネージャーの彩子だった。

「期末の答案返ってきたんでしょ?どうだった?」
進級を心配しているのであろう、中学でも一緒の部だった先輩の顔を見て、流川はボソッと応えた。
「……赤点はねぇっす」
「ホント?ちょっと見せて」

流川は面倒臭そうに、それでも素直にバックから数枚のプリントを取り出して見せた。

「あら、ホントね……頑張ったじゃない、流川」
ポンと肩を叩かれて、流川は短く応じる。
「……っす」

実は仙道に勉強を教えて貰っていた為なのだが、勿論そんな事は口にしない。
「良かったわ、桜木花道も晴子ちゃんに教えて貰って、何とかスレスレで赤点免れたのよ」
「…………」
同列にされたくはないが、以前は共に赤点王だったのは否定出来ない。

ところが、答案を眺めていた彩子が、ん?と思って見直した。
「ちょっと流川、何で『同音異義語を上げよ』で『どあほう』なのよ?」
勿論そこはバツである。
「同音異義語の意味解ってる?」
更に畳み掛けられても、流川は困った風に黙っていたが、やがて観念した様に答えた。

「…………ちげーから」
「何が?」

また暫くの間をおいてから、流川は続ける。
「……どあほうに言うのと仙道に言うのとじゃ、全然意味ちげーから」

彩子は意味を捉えるのに、暫し固まった。

どあほうとは桜木花道の事だ。
流川はまず桜木を本名では呼ばない。
どあほうが代名詞なのだ。

それはともかく────仙道?

「アンタ仙道にどあほうとか言うの?」
「あー………まぁ……」

他校とは言え先輩なのだが。
国体で一緒になるから、他校の先輩達とも当然絡む。
彩子の記憶によれば、牧や藤真は3年だが、2年の神にもさん付けしていた筈。
仙道だけが呼び捨てにされているのだ。
彼があの性格だから、さん付けを問われてはいない様だが、流川にとって仙道だけがとことん他とは違うのか。

「まぁいいけど。……違うって何が?一応年上だから気を遣ってんの?」
「それは……」

これには困った。
どあほうには文字通りの大バカの意味で使っているのだが、仙道に対しては、呆れたりはしても愛情がベースにある。
無自覚だがそれを言うトーンも全く違う。

しかしそんな事を言う訳にはいかずに押し黙ると、彩子は眉尻を少し下げて溜め息をついた。
彼女も詮索好きな訳ではないので、言いたくないなら無理に聞こうとは思っていない。

そんな所に、今はまだ片想いの彼女を見つけたキャプテンの宮城が、「アヤちゃーんv」とハート付きで呼んで駆けてきた為、流川はペコリと頭を下げて、部室に入った。


彩子は宮城に受け応えしながらふと思う。
(……仙道はあんなだから、流川揶揄われたりするのかしらね……)
それでどあほうとか返してるのなら想像はつく。
初心者桜木と自分に初黒星を付けた天才プレーヤーとでは、無論意識も違うだろう。

そんな風に納得した彩子は、仙道と流川がプライベートでも特別な関係にあるなんて想像までは、まだこの頃はつかないのであった。




───────おしまい。

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