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ショート
男達の舞台裏(仙流)
洗面所でバシャバシャッと顔を洗って鏡を見ると、気怠げにシェーブフォームを取り、髭を剃る。
成人男性なら当然の事とは言え、若干面倒臭いのは否めない。
勿論慣れはするのだけれど。

まだ学生の頃は、仙道に先に大人になられているみたいで悔しかったりもして、並んだ時は嬉しかったものだが、今も彼に比べたら薄いものの、手間は同じだ。

パタパタと叩く程度であるが、流川とて髭剃り後のローションと乳液位はつける。
ふと彼は、一緒に置いてある物に目を止めた。
そんな時に欠伸しながらやってきた仙道に訊いてみる。

「コレ、どーすんだ?」
指差したそれはメンズの、所謂美容液である。
「ん?興味持ったか?ミルクローションの後に塗るだけだぜ、ほら、こん位」
流川の掌に出してやると、彼はそれをじっと見つめてから、顔に塗り広げてみる。

「…………」
「どんな感じだ?」
「……よくわかんねー」
仙道は、はっはと笑った。
「そうか。ベタつかねーし、気持ち悪くはねーだろ?」
すると流川はコクンと頷く。

「何……肌とか気になり始めたか?」
「別に……そーゆー訳じゃねーけど」
「けど?」

聞き返すと、流川は暫く間を置いてから答えた。
「表情筋も筋肉だから、使わねーと衰えるって……」
「うん?」

何だか話が繋がっていないので、仙道は黙って先を待つ。

「今はハリも艶もあるけど、若いうちから気を付けた方が良いって、メークの人に言われた」

「あー……確かに、表情豊かな奴の方が老け難いとは言うよな」
「…………」

それは共通認識なのかと、流川は少しだけ眉を顰める。
そんな彼を眺めていて、仙道は徐に言った。

「気になるのか?でも無理に表情作ったりしなくていいんだぞ?」
「……別に……そんなつもりはねー」

仙道は暫く考えてから、もう一度尋ねた。
「何に引っ掛かったのか……自分では気付いてるか?」
すると流川も考え込んで、それからボソッと返す。

「……年上のアンタより、先に老けたら悔しー……」

そこで仙道はプハッと笑ってしまった。
一年程度、大人になれば大して変わりはないだろうに。

「おめぇ、何でも勝負にしちまうんだな」
そう言うと流川はちょっとムッとしたみたいな表情になるが、仙道は一応フォローという事で付け足した。

「年を重ねていくのは同じだろ?おめぇがじーさんになる頃はオレもじーさんだ」

言いながらも仙道は不思議に思う。
流川はそういう事を気にするタイプだったか?
なので素直に言葉にした。

「おめぇがそーゆーの気にするなんて意外だったな……まぁバスケを長く続けたいなら、躰の若さとか体力とか気にするのは解るけど」
威嚇とかは別としても、表情は寧ろ読ませない方が良いだろう。

「それは……」
一旦口を噤んだ流川だったが、暫しの葛藤の後、小さい声で答えた。

「……アンタが、オレだけって思ってくれてんなら…………勃てらんなきゃ……イヤだ」

仙道は意外な答えに目を丸くする。
真っ赤になってソッポを向く流川を見て、取り敢えず逃がさない様に、仙道は彼の腕を捕まえた。
「それって……」

黙ったままの流川を見ながら、仙道は脳を忙しく働かせた。
それは自分が今後もずっと流川で勃つ様にという解釈で合ってるだろうか?

あまりに間が空いたので、流川は彼に視線を戻すと、仙道にぎゅっと抱きしめられる。

「……オレ、すげーおめぇに愛されてんのなv」
嬉しそうに言って、耳にキスをした。
否定をされないので、解釈はそれで合っているのだろう。
だが直ぐに流川に手で押されて、少し離されてしまう。

「髭剃れ、いてー」
「えー……離したくねー」
「キスさせねーぞ」

仙道はしょーがねーなぁと渋々流川を離して、洗面台に向かった。
流川に痛い思いをさせるのは不本意なので、ここはちゃっちゃと剃ってしまおうとシェーブフォームを手にする。

「……あ」
仙道の声に流川が振り向くと、彼はニヤリとして言った。

「おめぇちゃんと顔の筋肉鍛えてんじゃん」
「?」

キョトンとして自分を見る流川にそっと近付いて、耳元で艶を乗せた声で囁く。

「オレの……しゃぶってくれてるだろ?」

目を見開く流川に、仙道はその耳にもう一度キスをしたら、ゲシッと蹴られてしまった。

「早く剃れ」

蹴られた所を摩りながらも、そのまま部屋へ向かってしまう流川の耳が紅く染まっているのを目ざとく見つけて微笑むと、仙道はまた鏡に向かった。
今晩が楽しみだなぁなんて浮かれながら。





───────おしまい。

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