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神子色流れ
黄の国



赤い夕日は、風雅な和式の街並みに不思議と合う。

月翔国妃、凰蘭はぼんやりとそんなことを考えていた。



三階の窓辺から覗く街並みは、穏やかで美しく。
寸分の狂いも無く、平和だけを刻んで行く。


千和千鳥の六国の中で、一番、平和で秩序の保たれた国はこの場所だろう。

「平和」は、遠い昔、凰蘭自身が望んだはずの世界であった。
こんな、仮初めの「平和」を望んだ覚えは無い。


珍しく凰蘭の顔には笑みが無く、その目は荒んでいた。
事実を知って失望したような子供を思わせる瞳。

それには、何も映っていなかった。いや、映していなかった、と言った方が正しいか。


崩されることの無い均等で平等な世界。
それを、揺るがしてくれる存在を彼女は待ち続けていた。

決して、彼女が平和を望んでいない訳ではない。
そもそも、凰蘭はかなりの平和主義者だ。

ただ偶像の、作り物の平和はいらないと言う。
それを作り上げたのも自分だと知りながら。



かたん、と背後の扉が鳴った。
和洋折衷の城の中では珍しくも無い、木製の扉。
その、扉の先の気配を読み取って、凰蘭は瞬時に笑顔を作る。

先程の影は、微塵も見当たらない。



振り向いた先には、読み通り、近衛騎士団長、雅染がいた。


「どうも。ご機嫌、麗しゅう?姫様。」

小首を傾げて肩を竦めてみせる雅染は、成人とは思えない程、子供らしい。


「あまり、よろしくないわ。」

凰蘭も、雅染の戯れの問いに律儀に答える。そうした方が気が紛れて楽だった。

気負いを感じた時や、疲れた時。
そんな時に、雅染と話すのが、昔からの習慣になっていた。

不思議とその時は、近くに雅染が居たのだ。まるで自分の意思を汲み取ってくれているかのように。

朱鸞の騎士のように、強い励ましをくれるでもなく。
柳弦の騎士のように、気を紛らわすのが上手い訳でも。
青藤の騎士のように、ただ黙って支えてくれる訳でもない。
まして、黒海の騎士のように、可愛らしい言葉を掛けてくれる訳でもない。

ただ、そばにいると安心できる。
大きな包容力と器を持っているのだ。彼は。

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あきゅろす。
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