宵闇
侵
「俺もグィンに同行する」
ジェイはタバコの煙を上に吐き出しながら言った。
「…頼む」
「数名、精鋭を連れて行く。決行は取り引きの日だ」
Kもタバコに火をつけた。
メイに出会ってからは一度も吸わなかった。久しぶりの味。
「K、あなたはここで待っていてください」
「………。」
「クイーンが華火の取り引きを潰し、俺は彼女を連れ戻してみせます」
ジェイはKにひざまずく。
「どうか…俺達を信用してください」
すると、最後の煙を吐き出したKは、タバコを灰皿に押しつけた。
「…頼んだぞ」
そのまま、自室に戻るKをジェイは頭を下げたまま見送る。
「お久しぶりね。ロイさん」
深川にいるクイーンは、なじみのバーのマスターに声をかける。
「久しぶりだな。リア。今日は?」
「ロイさんほど裏を知ってる人がそんな質問を?」
リアはクイーンの偽名。
クスクス笑いながらクイーンはロイのアゴを撫でる。
お互いに笑い合う。
「グィン、お前は俺に同行しろ」
メイがとらわれたビルの近くで、最終確認をするジェイ達8名。
「わかりました」
「他は…変電所が爆破され、一帯が停電になったら正面を爆破。ここには華火の組員しかいない」
「はい」
「あとは逃げたがっている女達を逃がせ」
「はい」
ビルの見取り図を見ながらジェイが話す。
「メ…目標はきっと一番奥のセキュリティが一番強固な部屋にいる」
グィンが悔しさから歯を食い縛る。
「自家発電に切り替わったら…コンピューター室のロックがかかる。それまでにフォースは中に入れ」
「承知した」
4(フォース)の称号をもつハイドは、無類の機械好き。
「ファイは、クイーンが動いたことを知り、深川に向かった」
最後に見取り図を焼き捨てるジェイ。
「いまから奪還するのは、Kにとって初めての大切な人だ」
「………。」
「いつも我々を導いてくれたKに…恩を返す時がきた!」
ジェイはメンバーをこの8人にしたのには理由がある。
皆まともな生活をしていたなかった地獄から、Kが見つけだし、Kに居場所と仕事を与えられた者だ。
「命をかけて…取り戻します」
グィンが言うと、皆がそれに賛同した。
すると、灰になった見取り図をジェイは踏み潰す。
「我々は龍成会…」
皆の心が一つになる。
「正面から攻め入る!」
「はっ!」
皆がそれぞれの持ち場へ。
変電所の停電まであと15分。
取り引きも同じ時間だ。
「…メイ」
Kは龍成会のビルの自室に寝泊まりして、今日を心待ちにしていた。
窓から外を眺め、不安にかられていると、
「クゥ…ン」
ユエが足元に擦り寄る。Kはユエを抱き抱える。
「お前も…早く会いたいよな…」
「Go!」
変電所が爆破。電気がストップした。
30秒以内にコンピューター室へ行かないと自家発電に切り替わる。
動揺している華火の見張りに小型爆弾の洗礼。
「お待ちしておりました!」
廃墟となった倉庫。
ファイの笑顔の先に、車から降りてきたロシアのマフィアの幹部がいた。
「金は用意できています」
ファイが手下にスーツケースを開けさせる。
「ブツをお見せ頂けますかな?」
すると、幹部はカタコトの英語で言った。
「スミマセン…アナタ達とは取り引きできまセーン」
「!?」
ファイの顔がゆがむ。すると、ロシアのマフィアの車から…クスクス笑う声。
「お久しぶりね。ファイさん」
「お前は…!」
降りてきたのはクイーン。
「…やはり来ていたのは本当か」
クイーンはロシアのマフィアの幹部=イワコフの隣に寄り添う。
「華火を裏切った女狐め!」
「…なんとでも。変わり身の早さと情報網の広さは私の武器」
「…なるほど」
クイーンは以前、華火の…ファイの女だった。
「あなたとの生活は退屈だったわ」
「!」
「あなた…夢中になると何でもくれるんだもの」
ファイが怒りに満ちている。
あざ笑うかのようなクイーンの態度。
「その点、Kは女の扱いがうまいわ」
「!」
「決して私には落ちない…でも、ホメ上手なの。プライドの高い私にはたまらなく快感なのよ」
クイーンはとことんファイをバカにした後、イワコフにささやく。
「行きましょう…詳しい相談はもっといい場所で」
クイーンの妖艶(ようえん)な美しさにイワコフはメロメロ。
「待て!龍成会以上の金と女を差し出す!」
イワコフに訴えるファイだが、イワコフは首を横に振る。
「アナタ、わかっていまセーン」
「!?」
「コノ世界、信用大事。華火組、調べマシタ」
「!」
「アナタ達、警察にマークされてル。龍成会、警察…うまく利用してル」
クイーンは待ちきれないと言ったように、イワコフに抱きつく。
「我々、バレたくナイ。スミマセン…ファイ」
ボーゼンとするファイを置いて、イワコフ達が立ち去る。
その前に、クイーンがファイに近寄る。
「…龍成会本部に丸腰で来たら…今回の品、すべて渡すと…ただし、女を自由にすること。そう言えばわかる…と」
「!」
「Kはなんて甘いのかしら。ただ潰してしまえばいいのに」
クイーンはイワコフの車に乗り、そのまま立ち去る。
「フォース…どうだ」
イヤホンマイクで無線連絡を取るジェイとハイド。
ハイドはコンピューター室に侵入した。
ジェイはメイの監禁されているだろう部屋へ、なんとか到達。
グィンは被弾したが、歩けないことはなく、ジェイの背後を守る。
『厄介だね…暗証番号二重ロックに…キーが必要だ』
「鍵は問題ない。鍵のある場所で俺に侵入できない場所はない」
『…僕は侵入は専門外。時間がかかるよ』
「…やってくれ」
…目の前に…この奥にメイがいるのに何もできない自分がもどかしくてたまらないジェイ。
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