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宵闇






「まさか…Kが?」

ファイは本拠地であるビルの最上階のオフィスにて報告を受けていた。

「…間違いありません。ファイ様に会いたいと」

「…何が目的か…探ってくれ。俺は会ってみる」

「かしこまりました。3階の応接室にいます。丸腰でした」

「武器も持ってないだと!?」

ファイは少し混乱した。








「お待たせした。わざわざK本人が出向くとは…こんな時期に」

ファイが部屋に入ってくると、Kは立ち上がる。

「お久しぶりです。近頃は忙しくて挨拶もしていなかったので」

ファイはソファーに深く座り、Kにも座るようにうながす。

「それはそれは光栄です。それより、シグが大変迷惑をかけたようで…」

「いえ…こちらこそ…リックがお世話になりました」

Kは座り、ファイと向き合う。

「ウィスキーでも?」

「…頂きましょう」

ファイがウィスキーを入れる。

「目的は…なんですかな?うちはあなたのファミリーと違って麻薬で儲けないとやっていけないので忙しいのですが」

Kはウィスキーを受け取り、一気に飲んだ。

「まわりくどいのは嫌いだ。それは…あなたも同じでしょう?」

「そうだな…聞かせてもらおう」

まさに一触即発のピリピリした空気。

「あなたの買った女を…1人手放して頂きたい」

「女?」

ファイは意外な申し出に高笑い。

「はっはっ…Kほどの方が…女ならいくらでもいるでしょう。わざわざ華火の手に染まった女でなくとも…」

Kはイラ立つ気持ちを抑えるのに必死だった。メイを傷つけた男が目の前にいる…。
ギュッと握った拳を…ゆっくりと開いた。

「見返りは…我々、龍成会が所有するカジノのうち、最近できたばかりのカジノの売上金の我々取り分25%をそのままそちらに」

「!」

「華火がずっと欲しがっていた権利だ。悪い条件ではないと思うが」

ファイがKの真意を見抜こうと、まっすぐ見つめたが、Kは不敵に笑う。

「…おもしろい」

ファイが乗ってきた。

「カジノは長い間龍成会が取り仕切ってきた…」

「………。」

「そこに我々、華火が進出できるとは」

どうやら話はまとまりそうな雰囲気。

「…決まりだ。その話、乗りましょう」

ファイがウィスキーをつぐ。
Kはまた一気に飲む。

「しかし、Kがそこまでする女とは…」

「………。」

「Kの心を奪った女の名前を聞いても?」

ファイはクスクス笑いながらウィスキーを飲んだので、今度はKがつぐ。

「…李美鈴(リーメイリン)」

「!」

ファイが思わずグラスを落としそうになる。

「美…鈴?」

「…実は本人はもう私の手の内ですが…」

「!」

ファイはハッとして冷静なフリをした。

「我々の間でそんなことは了承もなしによくあること。しかし、メイ自身がそのことをとても気にしているので…」

Kは手酌でウィスキーをつぎ、また一気に飲んだ。

「精算のために来た」

「!」

テーブルに空のグラスを叩きつけると、ファイが少し驚いていた。

「ウィスキーも空だ。ファイ…答えを」

ファイは空のビンを手に取り、部屋の外へ。

「さすが。強いな」






「ずっと…」

ファイは新たに持ってきたウィスキーをゆっくりと飲む。

「美鈴を探していた…」

「!」

「Kの所にいたとは…見つかるはずもない」

ファイはウィスキーを飲み終えて、静かに言った。

「…もし、渡すつもりはないと言ったら…?」

「!」

ファイにウィスキーをつがれる。

「…私は、意地でも奪います。抗争の引き金になったとしても」

「!」

Kの言葉のブレのなさに、ファイは驚いた。
この若さでこの気迫…ファイは、断ることがどういう結果を招くか、わかっていた。
しかし…

「大事なら…なぜ1人にしておいたんです?」

「!」

ファイの不気味な笑い声に、嫌な予感がしたK。


「…ゃ…っ」

廊下から、聞き覚えのある声。でも、怯えてる。


ガチャ…とドアが開くと、メイを連れた背の高いガードマン。

「メイ…!」

Kが思わず名前を呼ぶと、呼ばれたメイはその声に助けを求めるように名前を呼び返した。

「Kさん…っ」

同時に、メイは鳥肌が立った。
しゃべらなくても気配だけでわかる。

「嫌…っ…」

ガードマンは手を離さない。
全身が震えた。

「嫌ぁぁ…っ!」

メイの悲痛なまでの叫び声が、Kの胸に突き刺さる。
…苦しい。

「久しぶりだな。メイ…会いたかった」

ファイが高圧的に話す。
メイは首を横に振ったが、ほほに手が触れると動けなくなった。

「…や…」

「…寂しかったんだ」

もはや抵抗しないメイをガードマンが放した。
すると、メイが目の前のファイを押し退けて、Kの方へ走る。

「…や…怖い…っ」

メイはKに抱きつくと、震えたまましがみつく。

「やだ…っ」


Kは抱きしめたいが、ファイがいる手前、堂々とはしなかった。
すると、ファイは高笑い。

「これは…!目が見えない女にまで…Kはモテますな」

メイがガタガタ震えていると、Kは平常心ではいられなかった。

「…黙れ…ファイ」

「!」

怒りに満ちたK。ファイは意地悪く笑う。

「冷静じゃないあなたなど初めて見ました」

「………。」

「しかし、残念ながら彼女は我々のものだ」

「な…に!?」

「手放す気はない。見つけて頂いて感謝いたします」

「!」

Kにしがみつくメイを、2人のガードマン達が引きはがす。

「や…っ、Kさ…っ!」

「…っ…メイ」

Kはメイの手を握っていたが、ゆっくり放した。

「!」

メイに絶望が襲ってくる。
また…捨てられた…そう感じた。
抵抗する力も、歩く力もなく、その場に崩れそうになる。

「メイ…最初の約束を覚えてるか?」

「!」

最初の約束…Kは絶対捨てないと言ってくれた。

「心は…いつもそばに」

Kの言葉は、いつものようになめらかで優しかった。

「必ず自由にしてやる」

「…はい」

メイも笑顔で答えた。震えはもう止まった。


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あきゅろす。
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