問題児からそんな言葉が出たら教師としては嬉しいに決まってる
「ここも、分かんねぇ」
「んー?…こりゃああれだよ、去年の応用」
「分かんねぇ」
「…ったく」
夕焼けの紅に染められた教室に時計の音と、声と、シャープペンシルが紙を滑る音だけがあった。室内には、教師と生徒、二人だけ。教師である坂田銀八は慣れた手付きで生徒、高杉晋助のプリントに丸を描いていく。
「あー……ここはさ」
微妙な解答だったらしく、銀八から丁寧な解説が入った。普段の授業は少し適当だったが、それを疑う程丁寧に。声のトーンから余程嬉しいのだということが伺える。高杉は所謂「問題児」で授業の出席回数がかなり少なく校外の問題も多い。そんな彼が自ら銀八のもとへ赴き、『ここ分かんねぇから教えろ』と言ったのだ。言い方に問題はあったものの、嬉しくないはずがない。
「なあ」
「ん?」
解説のキリのいいところで、高杉が声を発した。数秒、銀八と視線がぶつかる。
「他の教科も分かんねぇんだけど」
銀八は驚きのあまり、しばらく瞬きを忘れていた。が、ガタンと勢いよく立ち上がると他の教師を呼びに行こうとする。銀八の担当は国語。他の教科が全く出来ない訳ではないが、担当の方が分かりやすい解説だろう、と考えたのだ。しかし高杉はそれを止める。
「てめぇがいい」
と、明らかに本気であると告げる目と声で。銀八は何度か瞬きをした後に理解したのか、苦笑しながら座り直す。
「担当外だから、国語みてぇな解説は期待すんなよ。…で、どれが分かんねぇんだよ?」
再び教室にはシャープペンシルの音と赤ペンの音、声が戻った。開け放たれた窓から運動部の声が聞こえたものの、それが二人の集中を乱すことはなかった。
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数十分、否一時間程経った頃、部活動終了を知らせるチャイムが鳴った。これ以上学校には残れない。机の上に広げた教材を鞄に入れていた高杉が、思い出したように顔をあげる。
「てめぇ、明日は居んのか?」
「明日…?居るけど」
「…なら、授業出てやるよ」
響いた言葉は待ちわびたものだった。銀八が高杉を知ったときから、ずっと。それが高杉自身から出た。嬉しさのせいなのか、銀八がからかうように…心からの喜びを溢れさせて笑う。
「待ってる」
と言いながら。
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長いタイトルで見にくかったらすみません。次は高誕の予定です。
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