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ためらった俺の、情けない話
遠くから、絶望にも似た悲鳴が聞こえ「守れなかった」と一瞬錯覚してしまった。まだ決着はついていない。燃えさかる炎のせいなのか目の前の男と刀を交えるという避けられなかった現実の重みなのか、先程から喉奥が焼ける様に渇く。熱い。乱れた息を整えながら、男を睨みつける。男の緑色の瞳はただ俺を見据え、余裕そうに口元に笑みを浮かべていた。そして狂気に満ちた声で

「よぉ銀時ィ…長かった俺とお前の因縁…ここで終いとしようやァ」

なんて言う。ぎらりと鋭い光を放ちながら見開かれた目に、一瞬ぞくりとした。背にまとわりついた恐怖、とも呼べるそれを振り払うように一歩、距離をつめる。

「高杉ィ…てめぇ…ッ」
「終わらせてやるよ…お前がずっと見続けてきた長い悪夢もな…」

悪夢?一体どれを悪夢だというのだ。俺が「生きるため」と理由をつけて天人を殺し続けたことか。それともお前を愛したこと?脳裏に一瞬浮かぶのは悪夢でもなんでもない。ただの過去。

「俺はただ壊すだけだ」


「―全てを」

やけにその声だけが大きく聞えた。鞘から刀を抜く、それだけの動きからも目を離せない。向けられた切っ先。喉の渇きをかき消すように唾液を流し込み、木刀を構える。

脳裏に浮かぶのが過去であり、紛れもない現実だとするなら。目に映る高杉と刀を交えるというこの状況は悪夢になったりしないのだろうか、なんて。一瞬でもそんなことを考えた己に嫌気がさす。こいつを斬ると宣言したのは俺で。怯えたような神楽と、不安を滲ませる新八を護れるのも俺で。
―この中で高杉を斬れるのも、俺。
高杉には鬼兵隊の奴らがいるが、子供二人の面倒を見れるのは恐らく、俺のほかにはいないだろう。

やるしか、なかった。高杉を見据え、小さく息を吸い熱を帯びた地面を蹴って走る。高杉と同タイミング。木刀を振れば、業火の中にやけに大きくぶつかった音が響いた。


刀が交わる最後の瞬間まで、全て嘘であるような気がしていた。ただもう一度、あの頃に戻れたなら、と。そこには、一秒にも満たないためらいがあった。
情けない話だろう?


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結構前に地方のテレビ局で再放送してました。150話大好きです。もう一本書くかもしれません。

  

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