月が音を奏でる夜
009 ★
ピク、と身体を跳ね上げながら反応を見せる奏音を横目に見ながら、耳を攻める手を止めない蘭丸。
『もう充分だろ!好い加減止めろ!』
頭の中で理性が叫ぶ。
『こんな事をしたい為に、コイツの側にいる訳じゃねぇだろ!』
その言葉に、ピタリ、と耳を弄る指が止まる。
けれど、また、別の声が聞こえる。
『見てみろよ。奏音だって、オレを求めてんだよ。ココで止めてやる方が酷だぜ?』
ふ、と視線を落とせば、はぁ…っ、と甘い声と吐息を漏らしながら、うっすらと赤く染めた頬と微かに濡れた瞳と視線が絡む。
『嫌なら、暴れまくって、オレの腕の中から逃げるだろ?けど、逃げねぇ。奏音もシて欲しいんだよ』
初めて背負った時のように、ジタバタと暴れるのに、暴れる気配すらない。
それは、苦手な耳を触られている事と、初めての感覚に戸惑い、プチパニックを起こしているだけなのだが、蘭丸に判る筈もなく。
溜息交じりに吐息を漏らせば、
「ふあっ!やっ…!」
耳に掛かる吐息に甘い声の艶が増し、胸に置かれた奏音の手が、縋るように蘭丸の上着を握り締める。
脳裏で勝手に喋る欲望に導かれるまま、奏音の耳殻に口唇を寄せ、カリッ、と甘噛する。
「だ、だめ…ッ!ボクの耳は…、食べ物なん、かじゃな…ぁあっ、も、やっ!」
ブチン、と何かが切れた音が聞こえた。
耳を弄っていた指を再び動かし、耳を攻め始める。
耳殻をなぞっていた指先が耳の穴付近に触れ、スリ、と撫でる。
与えられる感覚に震える指先で蘭丸の胸を押すものの、力が入る筈もなく。
「んっ、や…!も…お願…ッ、ダメ…!」
何度も抗議の声を上げるものの、蘭丸には伝わらず。
ぢゅっ、とリップ音を残しながら、奏音の耳を何度も攻め上げる。
ぴちゅ…ぴちゃ、ぢゅる…っ
直接鼓膜に響く水音と初めて感じる感覚に、奏音の身体から力が抜け始め、蘭丸の腕に支えられる形で、何とか立てていた。
[……反応良すぎだろ]
奏音の甘く艶のある声や反応は、蘭丸の下肢を直撃するには充分で。
耳を弄っていた指先が耳から離れ、服越しに背筋を伝い降りれば、
「ひゃ…ぁっ!」
奏音の甘い声が、響き渡る。
[このまま一気に抱いてしまおうか…]
反応が良すぎる身体。
甘く艶のある声。
―――――――……もっと、聞かせろ。
奏音の全てが、蘭丸の中の欲を刺激する。
普段見せる事のない、奏音の全てが見たい。
そんな欲に突き動かされながら、奏音を攻め立てる。
しかし、蘭丸の思い通りに進む程、世の中甘くない。
コンコンコン
ドアをノックする音に、蘭丸と奏音の動きが止まる。
「スー、いるー?」
「椿姫!?」
「チッ」
椿姫の声に、我に返った蘭丸は、ス、と奏音から身体を離す。
すると、ペタン、と力が抜けた奏音の身体は重力に逆らわず、へたり込む。
「この“続き”はまた今度、な」
「!」
クス、と小さく笑いながら、蘭丸は何事も無かった様にドアを開け、そのまま出て行く。
「え?あ…、黒崎さん?!」
すれ違う椿姫は、へたり込んでいる奏音と立ち去る蘭丸を交互に見たのだった。
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