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月が音を奏でる夜
010
顔を真っ赤にしてへたり込んでいた奏音をベッドに座らせ、何が起こったか事情を聞いた椿姫。

「――――……なぁるほどねぇ……邪魔しちゃったか」
「…そんなコト…!」

恥ずかしそうにしている奏音を見つめて、足を組み換える。

「でも、珍しいわね」
「?」
「アンタがスキみせるなんて、さ」

幼馴染みである椿姫は、じっ、と奏音を見つめる。
そもそも、奏音が興味を示すのは音だけで、人に興味を示さないと言う変わり者。
奏音は甘ったるい空気を感じると、無意識にその空気をブチ壊す。
中学・高校時代なんかは特に、終業式になると奏音に告白しようとした男子生徒達を悉(ことごと)く一刀両断した後、追撃。しつこく言われれば迎撃し、止め、と言わんばかりに木っ端微塵に撃破。
だからか、中学時代、高校時代は異性と付き合う事なく、年齢=彼氏居ない歴となっていた。
そんな奏音に付いた陰のあだ名が“幻のポケモン カナごん”だった。

[向こうが遊びなら、手段を選ばず止めるけど……んー…ま、一応、忠告だけしとくか]

奏音の様子を見ている限り、無理やり…と言う訳でもなさそうで。
ただ強引に出た結果がああなったのだろう、と結論づけた。

「でも―――……嫌じゃなかったんでしょ?」
「ふぇ?」
「……黒崎さんにあんなコトされて、嫌じゃなかったんでしょ?」
「嫌とかそんなんじゃなくて……ただ………」

奏音が視線を泳がせながら、ぽつり、と言葉を紡ぐ。
そして、かぁっ、と頬を微かに赤く染めながら、

「……どうしたらいいか判らなくて……」
「……アンタ、恋愛初心者だもんねぇ……初心者マークでも付ける?」
「初心者マーク???」

きょとん、とした表情で椿姫を見る奏音。
どうやら軽い嫌味は通じないらしい。

「……ま、あんなコトされて嫌じゃなきゃ、黒崎さんの事、嫌いじゃないってコトじゃない?」
「…嫌い――――……じゃない……?」
「そ。何とも思ってなかったり、心底相手が嫌いなら、スーだって抵抗するけど、激しく抵抗した跡すら見当たらないし……。服だって乱れてないし」
「―――――――――……嫌いじゃないよ」

暫く考えた後、導き出された答えを口にする。

「じゃあ、好き?」
「好き……?」

たった1つの単語を呟いた瞬間、ボンッ、と音がする位、顔を真っ赤にして俯く。
頬に手を当て、うぅ…と小さな呻き声を上げる。

[あんなコトされたのに、黒崎さんってば、嫌われてないわ。良かったわねぇ]

奏音の様子を見ながら、ココには居ない蘭丸に対し、呟く。

「ま、付き合う、付き合わないは別にして、自分の気持ちと向き合いなさいな」
「う?」
「………」

きょとん、とした表情に、

[……ここまで恋愛になると鈍いとは……。流石は幻のポケモン]

奏音の様子に、はぁあ、と盛大な溜息を吐く椿姫であった。

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