月が音を奏でる夜 008 ☆ 奏音が静かに泣き出してからどれだけの時間が過ぎただろうか。 [……小さい、な] 奏音の身体の小ささに気付く。 この小さい身体で、どれだけの暴言を耐えて来たのだろうか。 奏音が歌った時に現れるあの現象を初めて見た時も、哀しげに目を伏せ“薄気味悪い”と言っていた。 きっと、薄気味悪い、不気味、など言われてきたのだろう。 だが、それがどうしたと言うのだろう。 あの現象よりも、奏音の歌声に聴き惚れた。 甘く柔らかい声に加え、歌唱力・表現力も申し分ない。 それだけの実力を持ちながらも、あの現象が邪魔をする。 歌いたいのに、歌えない。 だから、満月の夜にだけ1人で歌う――――……、哀れな、一人ぼっちの輝夜姫。 「……ありがと……もう大丈夫……」 か細い声と共に、す…、と蘭丸の胸に手を当て、距離を置こうとする。 けれど、蘭丸は離そうとはしなくて。 「黒崎さん……?」 きょとん、と、涙が残る表情で蘭丸を見上げる。 微かに身体が離れたか、と、思えば、大きな掌が頬に残る涙を拭う。 そんな何気ない蘭丸の行動に、かぁ…と、頬を赤く染める奏音が、可愛くて、恋しくて……そして、愛おしい。 蘭丸の視線が恥ずかしいのか、ふぃ、と顔を反らすが、偶然、スリ…と、指が耳に触れた。 「ひぁ…っ!」 奏音の甘い声が聞こえる。 [コイツ……耳が弱いのか!] 頬を赤らめ、ググッ、と蘭丸の胸元に手をやり、距離を置こうと必死になるが、所詮は女の力。男に勝てる筈はなく。 「み、耳…っ、触っちゃ……やぁっ…!」 「…何か付いてるから、取ってるだけだ。もう少し我慢しろ」 「我慢…って、うぁっ!」 普段聞く事のない、奏音の甘い声をもっと聞きたくて、嘘を吐いた。 指が何度も耳に触れ、ピクッ、と奏音の身体が揺れる。 「も…取れ……ぁあっ!」 嘘を真実にする為に、顔を耳に近付ける。 蘭丸の吐息が耳に触れ、奏音の声に甘さが増す。 身体を離そうにも、ぎゅう、と強く抱きしめられ、逃げる事すら出来ない。 顔を逃がそうとしても、今、顔を動かせば、蘭丸と“キス”してしまう可能性がある。 どうしよう、と混乱しつつある奏音を他所に、蘭丸は蘭丸で多少、戸惑っていた。 [ヤベぇ…] 目の当たりにする奏音の痴態に、下肢に不埒な熱が集まるのが判る。 蘭丸の脳裏で、理性vs欲望の戦いの火蓋が切って落とされた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |