ギミックボーイ
*
この横断歩道を渡って、突き当たりの坂道を登ったら、もう法成学院だ。
脳内でちらつく選択肢。
それを、ブンブン頭を振って追い払おうとする。
さっきから何なの俺!暗すぎじゃないすか?もうさ、キャラじゃないっつーか、なんつーか?
うだうだと坂道を登りながら、ささやかな現実逃避を繰り広げる俺の脳内思考。
そういやさ。今思えば、女の格好させられたのは今回が初めてってわけじゃないんだよな。
ふとそんな事が頭をよぎる。
中1ん時の文化祭で、1度経験済み。
なんで思い出せなかったかなぁーと思ったけど、そういうお祭り特有のノリだったせいもあって、すごく楽しかったからだと思う。
つまり、今から地獄に落ちに行ってきます的な心境の今とは、どうやっても結び付けられなかった、という訳だ。多分。
……あの時も、中3の姉に女装させられてたっけな。
……………。
あンの、悪魔め。
「っああー……」
一気に現実に引き戻された。
俺は、自分の頬をベチベチ叩いて気合を入れる。
決めなきゃ、だよな。
さっき俺、地獄に行ってきますって心境だって言ったけどさ。
……今、まさにその「地獄」を目の前に立ち尽くしているわけです。
あー……。
ついに来ちゃったよー学校……。
何時の間にか坂道を登り切っていたらしい。
大きな校舎を前に、俺はひとまずコソコソと校門の脇に隠れる。そしてリュックから携帯を取り出した。
時計は9時近くを指している。朝のホームルームどころか、1時間目に突入している時間だ。
遅刻は確定。
もう、ここは諦めて登校してしまうか。
なんか……もういいや。
遅刻して登校しちゃおうかな。
めんどいし。
……うんそうしよう。
なんかもういいや。
だって考えるの疲れたもん。
なけなしのプライドなんて投げ捨ててやるし。登校して恥さらしてやるし。
「しゃあッ、ばっちこいやぁ!」
気合をいれる。女の格好してるから、周りから見ればオヤジ臭さハンパないなーきっと。
てか何だ。ハイスピード自己完結してしまった。
今まで散々悩んだのに決め方適当すぎねぇか!?という思いは海底2万マイルに取り敢えず沈める。
もー疲れたってのは事実だし……。
もうなるようにしかならないのだ、と納得することにした。
「まぁ、校則緩いしな」
言い聞かせるように呟く。
そして決心したように、閉められた校門に手をかけた。
ぐいっと押す。扉は簡単に開いた。
「……アーメン」
意味もなく言ってみた。
そして少しのためらいの後。
俺はついに、校門をくぐった。
……いや、くぐろうとした。
「トオル……?」
「わ」
急に声をかけられ、ビクッと体が強張る。
誰だ。
背後からのそれは、聞き慣れた声。
口にされたのは、トオル……透。俺の名前だ。
「は……え……?」
まさか。心臓をバクバクさせながら、ゆっくりと振り向く。
……そこには、慶介みたいな声をした、慶介みたいな姿の人物が立っていた。
その顔は、驚いたしたように目を見開いている。
お互いに、校門の前で固まって動かない。いや、動けなかった。
「慶介……」
……一番コイツには、迷惑かけたくなかったのになぁ。
俺は漠然と、そんなことを思った。
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