ギミックボーイ * この横断歩道を渡って、突き当たりの坂道を登ったら、もう法成学院だ。 脳内でちらつく選択肢。 それを、ブンブン頭を振って追い払おうとする。 さっきから何なの俺!暗すぎじゃないすか?もうさ、キャラじゃないっつーか、なんつーか? うだうだと坂道を登りながら、ささやかな現実逃避を繰り広げる俺の脳内思考。 そういやさ。今思えば、女の格好させられたのは今回が初めてってわけじゃないんだよな。 ふとそんな事が頭をよぎる。 中1ん時の文化祭で、1度経験済み。 なんで思い出せなかったかなぁーと思ったけど、そういうお祭り特有のノリだったせいもあって、すごく楽しかったからだと思う。 つまり、今から地獄に落ちに行ってきます的な心境の今とは、どうやっても結び付けられなかった、という訳だ。多分。 ……あの時も、中3の姉に女装させられてたっけな。 ……………。 あンの、悪魔め。 「っああー……」 一気に現実に引き戻された。 俺は、自分の頬をベチベチ叩いて気合を入れる。 決めなきゃ、だよな。 さっき俺、地獄に行ってきますって心境だって言ったけどさ。 ……今、まさにその「地獄」を目の前に立ち尽くしているわけです。 あー……。 ついに来ちゃったよー学校……。 何時の間にか坂道を登り切っていたらしい。 大きな校舎を前に、俺はひとまずコソコソと校門の脇に隠れる。そしてリュックから携帯を取り出した。 時計は9時近くを指している。朝のホームルームどころか、1時間目に突入している時間だ。 遅刻は確定。 もう、ここは諦めて登校してしまうか。 なんか……もういいや。 遅刻して登校しちゃおうかな。 めんどいし。 ……うんそうしよう。 なんかもういいや。 だって考えるの疲れたもん。 なけなしのプライドなんて投げ捨ててやるし。登校して恥さらしてやるし。 「しゃあッ、ばっちこいやぁ!」 気合をいれる。女の格好してるから、周りから見ればオヤジ臭さハンパないなーきっと。 てか何だ。ハイスピード自己完結してしまった。 今まで散々悩んだのに決め方適当すぎねぇか!?という思いは海底2万マイルに取り敢えず沈める。 もー疲れたってのは事実だし……。 もうなるようにしかならないのだ、と納得することにした。 「まぁ、校則緩いしな」 言い聞かせるように呟く。 そして決心したように、閉められた校門に手をかけた。 ぐいっと押す。扉は簡単に開いた。 「……アーメン」 意味もなく言ってみた。 そして少しのためらいの後。 俺はついに、校門をくぐった。 ……いや、くぐろうとした。 「トオル……?」 「わ」 急に声をかけられ、ビクッと体が強張る。 誰だ。 背後からのそれは、聞き慣れた声。 口にされたのは、トオル……透。俺の名前だ。 「は……え……?」 まさか。心臓をバクバクさせながら、ゆっくりと振り向く。 ……そこには、慶介みたいな声をした、慶介みたいな姿の人物が立っていた。 その顔は、驚いたしたように目を見開いている。 お互いに、校門の前で固まって動かない。いや、動けなかった。 「慶介……」 ……一番コイツには、迷惑かけたくなかったのになぁ。 俺は漠然と、そんなことを思った。 [*前へ] [戻る] |