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雪月花
16
「今にも泣き出しそうな顔してジッとこっち見てる」
言って、れいんは薫の様子を伺う。

ワナワナと震え、目を潤ませながら薫は、
「大丈夫なの?大丈夫なの?」
と、電話の邪魔にならないように、必死に声を殺しながら口をパクパクさせていた。

『ちょ、薫くんは大丈夫なのかい?発作とかになってないだろうね?』
一方の葉月も即効で計画が破綻したせいか、酷く動揺している。
そんな葉月に、
「代わる?」
とれいん。

『…お、お願いするよ』

「カオル、ハヅキよ」
「うぅ…」
何て言う二人のやり取りを受話器越しに聞きながら、葉月もどうしたもんかと悩んでいた。

「葉月さん…」
れいんから受話器を受け取った薫は声を震わせながら、弱々しくその名を呼ぶ。
『薫くんか。とりあえずは安心してくれ。
手術は無事成功したよ』
「はぁ…」
『それより君は大丈夫かい?
発作とか…発作とか発作とか。
かなりショッキングな事実だから内緒にしときたかったんだが…』
「私は全然」
『そうか…』
電話の向こうですっかり安心した葉月の声。

しかし、その空気をぶち壊すかの様に、受話器をギュッと握り締めたままの薫は言い放った。
「で、誰がお兄ちゃんを殺ったんだ?」
と。
その声はさっきまでの弱々しい少女のモノとは思えない程に重く、暗い声。

「カオル?」
その異変に真っ先に気付いたのは、隣で様子を見ていたれいんだった。

ついさっきまで潤んでいた少女の瞳は、一瞬にして光を失い、虚ろ。
まるで別人の様な―――――

『…薫くん?いや、殺られてはないからね。ちゃんと生きてるからね?聞いてる?』
「…しゃんなろぉおおお!絶対許さないんだから!その犯人、見つけたらギッタンギッタンのメッタンメッタンのビッチャンビッチャンにしてやるぅううう!
ムキィイイイイイ!!」
『お、落ち着いてくれ』


「…」
受話器を握って喚く薫の目は再び潤み、光を取り戻していた。
一瞬だけ見せたあの目と、その時だけ薫が纏った異様な空気は、れいんに身震いすら覚えさせた。
黒霧忍の妹、浅葱薫。
忍が希種としての力を宿しているのなら、その妹である薫もまた。

この浅葱邸の屋根の下で一緒に暮らす以上、まだ見ぬその正体を知る時は、きっといつかやってくるだろう。
れいんはただジッと、階段に座りながら薫の横顔だけを見つめていた。


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あきゅろす。
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