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short
糸 〜その名を知らない〜 こぼれ話



 実は……

 いっとき逃げ…どっか行っちまった探偵には、とてもじゃねーが聞かせられない俺と化物のやりとり…会話がある。



「……勿論理解しているに決まっていようが。
 それに、我が輩自身が目立つわけにはいかないのは変わらないのだからな」
「あっそ」

 探偵が居なくなってからの、化物との会話の直後のことだ……





 探偵がここに居ないのを念のため確かめてから、それでも俺は声をひそめて化物に訊いた。

「……で、ちゃんと配慮はしてんだろーな」
 口に手を添えて、ヒソヒソ話するみたいに。
 化物は目を丸くして、
「配慮?」
 と返す。俺の言うことがわからないらしい。

「その……ひ…避妊のことだよ」
「……ひにん……」

 額に中指を当てて、しばし思案顔の化物。
 もしや、知らねーとか?

 ……まさか、な……


「……生殖活動しつつも繁殖そのものを遮ることか?」
 知識だけはありやがるようで、ちょっとしてから化物はそう言ったが……


 この言い方だと、“実践”はしてねーな……


「わざわざややこしい言い方すんじゃねーよ。ガキが出来ねーよーにするってことでいーだろ!
 女の子を守る配慮でもあるんだからな」
「…………」

 女の子…探偵を守るつったところで、コイツは絶対に素直にものを言わないことがわかってるんで、俺は言葉を選ぶことにした。

「言っとくが、それだけじゃねーぞ。テメーらは商売柄外聞が絶対大事なんだから、万が一でも“デキ”ちまった…
 …あ、この場合探偵を孕ませることな…
 そんなことにでもなったら、世間的にも、何より探偵の親にも顔見せ出来ねーだろ。
 だから必要な配慮だっつってんだよ」
「…………」

 化物は変わらずの思案顔。いったい何を考えてやがるんだか……

 少しして、
「……我が輩に“それ”が可能なのやら…
 もしも可能でないならば実行してみたところで無駄であろうし…」
 とか何とか、一人でブツブツ言っていた。

 意味わかんねーが、理解しようとはしてるらしい。少なくとも俺はそう解釈させてもらって少しだけ安心したが、
「……つーか、今までしてなかったのかよ。
 おおらかっつーか、無防備だな。オメーも探偵もよ」
 コトがコトなだけに、精一杯皮肉を言ってやる。

 いや、ほんとマジで、“デキ”ちまったらどーすんだって思っちまうじゃねーか。

 まさか『種無し』じゃあ、あるめーし。


「……女の子のほーにも、その方法があるにはあるんだけどよ、こーいうのは基本、男のほーが気遣ってやってナンボじゃね?やっぱよ」
「…………」
「どーした?化物よぅ…?
 さすがに避妊具なんつーのを買うのも人目を憚るってやつか?」
「…………」
「そんならよー、俺が調達してきてやってもいーんだぜ。
 …や、勘違いすんな。テメーのためじゃねー。あくまでも探偵のためだからな」
「…………」

 化物は黙ったままだ。ほんと、何を考えてやがんのか……

「……気遣い痛み入るが……」
 やっと口を開いた化物が超レアな言葉遣いしたんで、俺は思わず身構えてしまった。


「その避妊具とやら…流通しているモノは、所詮は日本人基準なのであろう?」
「お?
 日本人基準て、何がだよ」
「……サイズの話だ」
「………まー、そーなる、のか?
 たぶんそうなんじゃね?」
「ならば……我が輩に合うモノがあるとは、とても思えんのだが……」
「ぶはっ!!」
 化物のセリフに不意を突かれて、思わず口に含んでたコーヒーを盛大に吹いてしまった。

 うっかりテーブルを汚しちまったので、慌てて給湯室から布巾を持ってきて拭きながら考える。


―これは、ガチで本気で真面目に言ってやがんのか……?―



 俺にはわからねぇ。


 化物が、ずーっと害のなさそーなニコニコ顔してんのが逆に怖ぇ……



 返す言葉を見つけられねーままでいると、探偵が戻ってきたんで、その話は自然とウヤムヤなまま終わったんだが……


 化物の言うことを信じるなら…

 ……『規格外』……なのか?
 そーなのか……?


 そーなると……

 どう見てもまだ成熟しきってなさそーな、見てくれガキんちょの域を出ない探偵が、そんなのと肉体的に対等な相手として成立できちまってるって…ことになるわけで……


 そー思っちまった以上、マジで申し訳ないんだが、探偵が今までより更に化物じみて見えちまったものだった。


 ……とはいっても、その後の話題が割と面白かったんで、引きずらずには済んだんだがな。


 探偵には絶対に言えねー。
 化物だって、オトコ二人でそんな話してたなんぞ言えねーに違いない。

 秘書が探偵にチクらないことを切に願うばかりだ……





<終>
※ ※ ※ ※ ※

拙宅のネウヤコ話における『避妊具』の話題って、このサイトが出来た頃のネタメモにあった、ほんとに古ーいエピソードのひとつでした
(当時は漫画にするつもりだった)

大事なことだからって思ってても、ネタとしてあまりに生々しい話題なので、まさか本当に使う時が来るとは思わなかったこのテーマ

突発的にmainIIのラストの話を追加しはしたけど、絶対的に話の流れにそぐわなすぎる、でも絶対に大事な話をどうしても盛り込みたくなった結果…こぼれ話としてshortに更新することと相成りました 


はた的にはやっぱり、ネウロさんはそのままでは子孫を増やせないのではないかなぁと漠然と思ってます

前に自分の文章でかいた覚えがあるけど、
『自分の子孫が欲しい』
と明確に思わないとならないんじゃないかなあって…そんな感じで

上でもかきましたが、まさかこのネタを使う時がくるとは思ってなかったので、ほんとに嬉しいです


読んで下さってありがとうございました


20200514

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あきゅろす。
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