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今日という日に


「あーもう、好き好き」
 私はネウロに横から抱きついて、髪にすりすりほおずりしながら言う。

「ネウロ大好き。ほんと、好きすぎ」
「…………」
「ねぇ、聞いてる?」

 こっちは訊いてるのに、ネウロはソファの端に肘を置いて頬杖をついてつまらなそうな顔をしている。

「もー、全然聞いてない」
 せっかく…滅多にない、素直に好きって言える気分の波だからいっぱい言ってあげてるってのに!

 ネウロが片目をすがめつつ私を見て、
「この至近距離で何度も言われては嫌でも耳に入るだろうが」
 なんて、表情と一緒のつまらなそうな声で言う。

「聞こえてるならさ、もっと嬉しそうに…はムリか。せめて満更でもないような顔してくれたってバチは当たらないと思うけど」
「今日という日に言われて嬉しくなど思えるものか阿呆め」
「今日……?」


―今日……―


「卯月の朔日ではないか」

 何でワザワザ難しい言い方するかな。しかも、すんごく忌々しそうに……

 ……うん、今日は4月1日。
 エイプリルフール…だね……

「……なぁによ。そんなのたまたまじゃない。
 それにネウロってば、こっちの世界の慣習なんて気にしちゃうの?そんであたしのレアで素直な告白にケチつけるなんて、人間…じゃないか、魔人がちっちゃくない?」

―それに、自分からはぜーんぜんそーいうこと言わないクセにさ!―
 ……とも思ったけど、さすがに言わないことにした。

「………………」
 ネウロはちょっと渋い顔をしてる。

 それから、呆れたのか諦めたのか…ふぅっとため息を吐いて、
「……だが、その我が輩が好きなのだろう?」
 苦笑を浮かべながら、言った。

 私は思わず頬がゆるんでしまって、
「うん、大好き。ほんと、好きすぎてどうしようってくらい好き!」
 また気分が盛り上がってきて、ネウロにひっついて言いまくる。

「……しつこい」
 ネウロがちょっと動いてお互い向かい合う形に座り直した。
 アゴをつままれて、顔を近付けてくる……

 慌てて目を閉じると、鼻先に軽く噛みつかれた。
「いつっ!」
 びっくりしたから痛さも増してる感じがして、ついつい大きい声をあげてしまう。

 目を開けると、ネウロが至近距離で、
「……貴様がそんな気分ならば、今我が輩はヤコからして欲しい気分なのだがな。
 ……たまには自分からしてみるか?」
 ニヤニヤ笑いを浮かべて、こちらをじっと見ながら、とんでもないことを言ってきた。

「えっ…えっ……」

 いや、ムリムリムリ!!

 そ…そりゃ、まれにはしてあげたことあるけどさ……
 それはよっぽど…そうとうノッてる気分だったから出来たんであって…

 今はそっちじゃない。

 好き好き言えても、私からキス出来るテンションじゃないのに!!


 ネウロはわかってるからか、ニヤニヤ笑いを隠さない。

「………………」
 本当に致し方なく、私はネウロにお返しの鼻先への軽い噛みつきと…
 オマケに、ほっぺたに軽くキスしてあげた。

 ネウロは笑ったままで、
「……その程度だとは口ほどにない。
 全く本当に仕方のない奴だな……」
 なぁんて言いながら、私の唇に親指を添えて顔を寄せてきた……




 ……そりゃさ、ことばだけで好き好き言ってても、しまいには物足りなくなるだろうってことはわかりますよ。
 ダテに長い付き合いをしてないからね。

 だけど、私の好き好きアピールに触発されちゃってるネウロは何なのよ……



 長い長いキスの後、手を引かれて、ネウロの膝を枕に仰向けに寝かされてしまった。


「…………
 それほどまでに何度も何度も言われると……
 何やらことばの重みとやらが感じられず、我が輩ちっとも少しも嬉しくないな……」

 ……なぁんて、髪を優しい手付きでとかしながら言っているネウロ。

 それに対して私は、
「そんなら……これからは、ゼッタイに言ってあげないから」
 ……と、髪に触れる革手袋に手を添えて言ってやる。



 ふたり、同じくして笑った。



 …………お互い、ウソばっかり…………








★☆★☆★☆

ひたすらバカップルがかきたかったのです(笑)



20200401

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あきゅろす。
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