short
月には月の(2)
日付が変わる。
「ネウロ!お誕生日おめでとう!!」
「ヤコ……以下同文……」
『happy birthday!お二人さん!!』
俄に賑やかとなる事務所内。
ヤコはやや自棄糞(やけくそ)気味の声音であった。
我が輩に羽交い締めにされながら“誕生日”を迎えたからだ…………
今宵は奇しくも満月である。
月は魔力と縁浅くなく、また、特に満月は我々にとって非常に印象…思い出深いものだ。
そのような日に、互いの生誕を言祝げるのは真に素晴らしいことだと思う……
……が……
どう言えば良いものか…
何という巡り合わせか、ヤコにもその“月の巡り”が訪れているのが、少々惜しいというか……
……まぁそれでも。
所詮始まりがあれば終わりがあること。
ヤコとはいつでも共に在り…即ちヤコはその気になればいつでも手中に収まるのだから。
だが、ヤコもいっぱしの女なのであろう……
互いの誕生日をどう過ごしたかったのか夢想していた模様。
そのような思惑を月の巡りに阻まれたことをどう思ったものか、今日のこの日をここで迎えようとはせず、帰宅するつもりだったようなのだ。
しかし、我が輩がそのようなこと許す筈もなく、何だかんだでソファに羽交い締めにして、今を迎えた次第、だ…………
「ネウロ…もう少し離れてくれないかなぁ」
ヤコは溜息と共に呟く。
女子学生だった頃と少しも変わらんもので、ヤコの身に定期的に巡るこの時期に……
我が輩は、ヤコが辟易し苦言を呈してしまうまで、密着してしまう。
「……やっぱ、帰れば良かった」
ヤコが独りごちる。
「何を言う。
今日のこの日の満月だぞ。素晴らしい巡り合わせとは思わんのか?」
「…………
そう、言われてみれば」
我が輩の言葉で漸くそれを認知し、ヤコは外を眺め、ほの明るい月夜であることを確認している。
「折角なので月見と洒落こもうと思ったのだが…主役の片割れ…相棒がいないのは、あまりに味気ないではないか」
「……うん、ごめん」
ヤコは顔を赤くした。
月を眺めるならば屋上に出た方が良いのだが、生憎今のヤコに冷えは禁物。
流石の我が輩でも、そこまでの…健康を害するまでの無理強いなどしはしない。
我々はトロイの椅子に移動する。我が輩はヤコを背から抱き囲え込み、窓際から雲ひとつない夜空の中天に浮かぶ満月を、ただ眺める。
「…………」
だが、ヤコはやはりどこか落ち着きがない。
この時期のヤコに密着するなどいつものことであるのに、今に限ってそうなるということは……
“この手の話題”はやはり、男である我が輩から振ってやらねばならんのだろうな……
「……しかし、惜しいものだな」
「…………」
「このような、格好の『良い雰囲気』の時に……」
「……ごめん」
声は、本当に消え入りそうに微かだった……
「……何を謝るのやら」
わかっているのに呟いてやる。
「……まぁ、惜しいと感ずるのは、所詮お互い様なのだから、気にするな」
「………………気にしてない」
「そうか。
だが、もしや気に病むというのならば…」
「だから、気にしてなんかないってば」
「ヤコのそのサイクルを暫し止めてやってもいいのだぞ」
「え?」
「我が輩が本気を出せば、容易かろう。
その期間が、貴様ら人間の方に倣うのかどちらなのかまでは知らんがな。
確か十月十日…だったか?
……こちらでは」
わざわざ遠回しに言ったことを…
ヤコは果たして理解したかどうか……
「勘弁してください」
ヤコは、ただそれだけ言った。
暫し黙ってからボソボソと、
「いつかはそーなってやっても、いーかも、だけど、さ……
でも今は…もう少し…しばらくは…
あんたとふたりで、こうやってわちゃわちゃしていたい、かな?」
そう、呟いた。顔を赤くしながら。
…………上々の返しだ。
「誕生日おめでとう、ヤコ」
軽く軽く唇を触れ合わせ、我が輩は漸く囁いてやった。
Happy birthday to N&Y!!!!!
※ ※ ※ ※ ※
2020年3月10日が満月であることを知ったが故の話です
ただでさえ私の中のネウヤコに月が欠かせないってのに、3月10日の月が満月だったとTwitterで知った私の気持ちがわかります???
ただそれだけの、ただひたすらテンションが空回りしている文章ですが、一読頂けばこれ幸い
(そして、うっかり寝落ちして、3月10日過ぎて更新してしまったアホなはたでありました)
20200311
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