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好奇心は探偵を追い詰める
いつものように、いわゆる『いい雰囲気』になり、我が輩はヤコに口付ける。
ヤコもいつものように、受け入れる。
ただ…今回違っていたのは……
我が輩の脳裏に、ほんのちょっとした悪戯心が芽生えたことであった…………
我が輩、あちらに戻っていた間に、新たな能力(どうぐ)を調達してきたものだが……
その中に、所謂『惚れ薬』に相当するものが存在していた。
勿論、今のヤコに使う必然などない代物だが、悪戯を思い浮かべてしまえば最後、ヤコにこれを投与し、その反応が見たい欲求が膨らんで仕方がない。
ヤコに怪しまれないよう、口付けに集中させながら、掌に密かに件の能力を召還する。
アンプル状のそれの蓋を指で落とし、合間に素早く口に含む。
「え……」
我が輩の仕草を惚けた表情で見ていたヤコの瞳が訝しみの色を滲ませたが、無視して再び唇を重ね、含んだ液体を口移しで飲ませた。
咄嗟のことなので嚥下しきれず、唇の端から液体が少々零れ顎を伝う。それを舌で追いかけ舐めとり、ヤコの口内に戻す。
貴重な能力だ。一滴たりとも無駄には出来ない。
「甘……何、飲ま…………」
呟く間に、ヤコの様子が変わる……
魔界の能力だけに素晴らしい即効性だ。
だが、頬が赤らみ、目は潤み……
これは…ただ酒に酔っただけのように見えなくもない。
何だ、つまらん……と思っていると、
「何ジロジロ見てるの?」
ヤコはこちらを見上げ、急に語気の強い言葉を吐いた。目付きもやや鋭くなっている。
「……?
随分とまた生意気なことを言うものだな」
「生意気って何?私は探偵、ここの所長よ。助手風情が何で偉そぶるのよ」
「…………」
「何か言ったらどう?アンタの口やクチバシは喰うしか出来ないの?」
「……………」
……これは……
元々我が輩に惚れている者(非常に自惚れた科白ではあろうが事実である)に惚れ薬なんぞ投与したものだから、能力の効果が斜め上に働いた…のか?
「……面白い」
「何面白がってるの?バカなの?」
「面白いのだから仕方なかろう」
「意味わかんない。さすが魔人の突然変異。魔界のボッチね」
「…それは我が輩には誉め言葉なのでな」
「何よ、こたえないの?
全く、つまんないだけじゃないそんなの。バカなのねやっぱり。
……まぁいいわ。
ネウロ、あたしに奉仕しなさい」
「…………」
普段のヤコならば決して口にしない語調に言葉。
我が輩は今…謂わば“ワクワクしている”心地である。愉しくてならないのだ。
しかし…奉仕とはまた……
―我が輩はいつでもヤコに“奉仕”していると思うのだが……―
いつもならば口に上らせる軽口ではあるが、今回は噤んでおいてやる。
「……ほら」
ヤコはトロイに腰掛け我が輩を見上げる。脚を組みサンダルの爪先で我が輩の脚を小突いてきた。
足を舐めろ…ということか……
ヤコの足を舐めること自体は我が輩にとって何の苦もない行為だ。
沢山あるヤコを昂らせる手のひとつであるので、時折してやっているのだから。
当然ながら……
ヤコがトロイに腰掛け我が輩に要求する構図などは、今はじめてのことだ。
……強気に出たとて、要求がその程度というのが笑えるが。
常にない状況とヤコの表情が愉しく、我が輩はせいぜい恭しく跪き、突き出された方のサンダルを脱がせてやった。
ヤコの脚は細くすらっとしていて悪くない……どころか、非常に好ましい。
硝子の靴を捧げ持つように小さな足を両掌で包み込み、指先に小さく口付け、舌を這わせ……
我が輩はそうしながらも、冷静に分析する。
ドS…女王気質といったところか…本人はそのつもりではあろうが、それには遥かに程遠く加虐性は皆無に近く薄い。
強気な発言と、日頃は決して口にしない要求からすると、やや媚薬の効果が前面に現れているのか……?
「……ん…っ」
敏感なヤコのこと、我が輩の与える感覚に無意識に脚を引っ込めようとする。
力ずくで抑え、足の指を含んで舐ると、感覚に意識を浚われぬよう必死に堪えた赤い顔で囁いた。
「……うふふ……
いつも…あたしのことわかってて……いい子ね……」
震える声に、迂闊にも我が輩も昂らされる。
……全く……何という…………
二度目に脚を引っ込めた時、唇や舌を白い内腿にまで上げ伝わらせ“奉仕”していた我が輩は、頭を上げた。
「……もう良いのか?」
「…………」
ヤコは目を見開き、次第次第に冷静さを取り戻しているような様子に見えた。
思いのほか効能が切れるのが早い。
やはり、状況にそぐわない薬を投与したせいか、ヤコの感情が大きすぎたせいか、はたまた、我が輩が“ノリすぎた”せいなのか……
ヤコは状況を把握しようとしているらしく、強気故の目の鋭さや表情が、目に見えて緩んできている。
一度固く目を瞑り、恐る恐るのようにゆっくりと瞼を開けたヤコは、跪く我が輩と再び目が合うと、
「ええええええええええぇぇぇぇ…………!!!!!!」
途轍もない大声を張り上げた。
「なかなか面白かったぞ、ヤコ」
我が輩は立ち上がり、口元を拭い舌なめずりをしながら、今だトロイに腰掛けたままのヤコに詰め寄る。
「ちょっ…ちょっとタンマ!」
ヤコは真っ赤な顔をして腕を突っ張り、ヤコにしては凄い力で我が輩を退かし、事務所の隅に逃れてしまった。
「何だ。もう終わりなのか?」
「ぎゃーーーっっ!!」
身体を丸くしたまま、ヤコは耳を塞ぎ頭をぶんぶん振っている。
通常ならば、能力の効果が現れている間の出来事は忘れ去っていても不思議ではないが…
場馴れしているせいなのかどうなのか……能力の効果が収まり意識が醒めても尚、ヤコは自分の言動を記憶している模様。
……なので、身の置き場もないほど羞恥に悶えている有り様のようだ。
普段ならば演技でも言わない科白の数々は、ヤコには黒歴史レベルの恥以外の何ものでもなかろうな。
我が輩は笑い声を隠すことなく笑い続ける。
本当に…何とまぁ……愉しいことだ……
「じゃ…じゃっ、また明日っ!!」
それでもヤコは、しどろもどろながらサンダルを履き直し、ここから逃れようと適当な挨拶を口にし走り出しドアに向か……
……わせることなど、我が輩がさせる筈もないだろう……
我が輩の脇をすり抜けようという時に、捉えて小脇に抱えあげてやった。
「……我が輩を散々煽っておいて……
誰が貴様をこのまま帰すものか」
後ろ向きに抱えられたヤコは、誤魔化し笑いを浮かべながら肩越しにこちらを見上げていた。明らかに動揺している。
「あ…やっぱり?
…ッ…でもっ!あれはそもそもネウロがあたしにヘンなもの飲ませたのがいけないんでしょっ!!」
「そのような言い分がこの我が輩に通じると思うのか?」
「ハイ、思っておりません」
即答するヤコの笑みが、苦笑いへと変わっている。
「だがそうだな……帰してやるとしよう。喜べ、我が輩が貴様を送っていってやる」
「送ってくれるんじゃなくて押し掛けるの間違いじゃないの?」
「…………ふ……」
そのままの体勢で我が輩は窓から夜の街に飛んだ。
目指すは勿論、ヤコの部屋だ。
ヤコは既に抵抗を諦め、我が輩のジャケットの裾を握り締めていた。
抱えた身体は熱い。我が輩もだが、ヤコもさぞかし期待しているだろうことが容易に察せられる。
ほんの悪戯心からではあったが…
思いもよらぬ顛末に、建物を飛び移りながら、ついつい笑んでしまう我が輩なのだった……
※ ※ ※
何かの折に閃いた突発ネタ
弥子ちゃんに魔界の惚れ薬的なの与えても意味なさそーとか考えてたような
足を舐めさせることと、その薬の効いている間のことをちゃんと覚えてる、とか幾つかネタメモに箇条書きにしてあって、要はそれ以外は成り行き任せですな
足を舐める云々は……まぁ……mainIIのあそこにありますしね……慣れてますね(笑)
大したことはかいてませんが、はた的には結構倒錯的な感じがします
20200225
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