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〜ことばの待ち人〜 04
あのまま落ちていれば、我が輩が受け止めたものを…とっさとはいえ何故、更に厄介になるような行動をわざわざとるのであろうか。
「うわー…これ怖い!
どうしよう……」
間の抜けた声をあげるヤコを我が輩は見上げ、
「……丸見えだぞ……」
そう、呟いてやる。
ヤコは、いつもの学校の制服を身に着けていた。
下から見上げるその光景は、どうにも説明のし難い、哀れといえば哀れなものではあるのだが……
「……!!
そこ、冷静に言うトコ違うでしょ! ていうか見るな!」
何を言う。
親切に主語も詳細も省いて言ってやったのだから、むしろ有り難く思うべきではないか。
第一、見ているのではない。見えてしまうのだ。
だが……
目まぐるしく変わるヤコの表情や口調は、不快ではない。
むしろ愉快で非常に好ましいものだ。
思わず笑いが零れ、我が輩は地を蹴り、ヤコの捕まる枝に、ひらりと立った。
「わー!! 揺らさないで…!」
叫ぶヤコの手を掴み、再び放り上げる。
満ち切らぬ月を背中に、ぽっかりと宙に舞うヤコの姿が…静止画の如く焼き付けられる…
…忘れることはなかろう…
我が輩も跳び、空中のヤコに腕をのばす。
何が起こったのかすら判らぬ表情のヤコだったが、それでも我が輩を認め…
縋るように、両方の手を差し伸べた。
受け止めて引き寄せ、綺麗に小脇に納まったヤコと共に、我が輩は更に高い枝へと飛び移る……
「…ムチャクチャしないでよ」
ヤコを横抱きにし、幹と枝の分かれ目に座り込むと、ヤコが長い吐息の後に非難がましく訴えた。
そうして、何気なく下を覗き見、目が眩んだか、我が輩の服の襟を掴み、更に頭を胸元に押し付ける。
手も頭も脚も…全てが震えている。目は固く瞑られて…よほど怖いのだろう。
ヤコがそうであればある程、我が輩には痛快でしかないのだが…
「よ…よくよく考えたら、さっきのって、すっ…ごく怖かった…」
声まで震わせている。
「ほう、それに比べたら、今の状態なんぞ、どうということもないであろうに」
「怖いものは怖いよっ!
ネウロのばかっ!!」
我が輩は片目を眇める。
「…そのような無礼なことを言い放つのならば、離れていても一向に構わん。
この枝にあと一匹程度、座る余裕なぞ有り余っていようからな」
小脇を抱え、引き剥がすように力を込めてやると、
「やっ…
やだやだやだやだ!
怖いから離さないで…!
離しちゃやだ……!!」
より力強くしがみつき、幼子のように首を激しく振る。
我が輩は本来、それに満悦すべきであろう。
事実、ヤコの縋りつくことばと行動に、満たされようとしている己の何かを、痛切に感じてやまない……
…だが…
……何かが、足りない。
何かがもの足りず、心もとないのだ……
それが何か、容易に判るようでいて、霞がかかったように、答えには辿り着けず……
我が輩は、ヤコの顎を力づくで引き上げる。
……それが何か解らぬまま……
抱き竦め、噛みつくように口付ける。
そうするしかなく、そうせざるを得ず……
「……ん…っ…」
ヤコが喉で唸る。
必死に我が輩にしがみつくヤコの様子はさながら、我が輩の行為を受け入れ、更に求めているようにも見えようが……
所詮、見かけだけ。
かたちだけ、でしかない。
わかっているのだ
我が輩は
ヤコはただひたすら恐ろしいだけであることを。
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