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〜助手にさざ波を…〜 10
我が輩が、他ならぬヤコに足止めされている間にも、匪口は語る。
これまで殆どが問いであったのが、
『お前がもっと普通の娘だったら…届くのに、な』
呻くような、苦渋に満ちた声音の呟き。
独り言めいているようにも見受けられた。
恐らくヤコに聞かせるつもりはなかったのだろう。
だがヤコは、匪口が手をのばせば届く距離にいる。聞こえない筈がない。
ヤコの体が跳ねるような反応をした。
ヤコの思考が止まる。
我が輩は漸く動けるようになる…
アカネに悟られぬよう平静を装い、
「…すぐ戻る」
一言短く言いおき、事務所を出た。
階段を駆け降りる。
事務所のある雑居ビルは、場所柄、昼間は往来が激しい。
そうでさえなかったなら、窓から直接飛び降りるところであるのだが…
ヤコの元に向かう間も、2人の様子を視る。
沈黙が続いている…
ヤコは極めて鈍いが、伊達に探偵はしていない。
得手不得手によるムラはあろうが、理解するときは瞬時に理解してしまうのだ。
…望まざることまでも…
何が届かないのか…我が輩にも解る心地に、駆けながら思わず苦笑する…
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