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……というか、マスターは裏に下がってつまみ食いなんかしていていいんだろうか。表は大丈夫?
「マスター、表は?」
「ん? さっき恭祐(きょうすけ)が来たから交代したぞ。気付かなかったか?」
「あれ、もうそんな時間?」
振り向いて時計を見ると、時刻は午後五時を少し回った所だった。
恭祐こと、水落(みずおち)恭祐君は、僕と同じくこの店のバイトの高校生の男の子だ。まだ高一だが、こないだまで中学生だったとは思えない程大人っぽく、仕事の覚えも早いしっかり者。
……とはいえ、まだバイト二ヶ月目で新人の部類に入る彼に一人で表を任せるのも少し心配だ。僕も早く戻ろう。
手早く皿にクッキーを盛り直していると、何故かマスターがニヤニヤと此方を見ているのに気付いて顔を上げる。
「……何ですか?」
「いやぁ? 恭祐が来たのにも全く気付かず、あのお友達とのおしゃべりに夢中になってたんだなぁ、って」
「……あ、すみません」
仕事中だもんな。流石におしゃべりはまずかったか。
顔をしかめた僕に、マスターはひらひらと手を振り「別に責めてる訳じゃねえよ?」と笑った。
「ただ、仲が良いようで何よりだと思っただけだ」
「……そう、ですかね?」
僕と惣、そして圭也との仲は良い方だと、少なくとも僕は思っているけど。それを改めて第三者のマスターに言われると、少し不思議な気持ちになる。
背の高いマスターは不意に僕の髪をくしゃくしゃと撫で、ニヤリと笑った。
「そうやって自由に出来んのは学生のうちだけだから、大切にしろよ」
「……マスターは今でも充分自由に見えますけど」
「大人にゃ色々あんだよ」
そうなのだろうか? 皿からクッキーを取ってサクサクと食べている姿は、とてもそうは見えないけれど。
摘み食いを止めないマスターを僕がじと目で見ていると、背の高い影が不意にドアから顔を出した。
「すみません、依月さん、フィルターのストックって何処にありましたっけ?」
「…あ、ごめん。僕もすぐ戻るから」
顔を出した恭祐君が呼んだのが僕の名前だった為、マスターが微かに眉を上げる。
「恭祐お前、そこで何で迷わず依月を頼るんだよ。店長の俺が居るだろうがよ」
「え、予備の品の場所なんて、マスター把握してるんすか? よく依月さんに訊いてるじゃないっすか」
15歳ながらに店の制服の良く似合っている恭祐君は、やや大袈裟に目を見開いて肩をすくめる。
マスターは大概大雑把で、納品を決まった場所にしまわない。それを整理するのは、主にバイトの僕の仕事だ。
「そうだけどよー。一応此処は俺の店だぞ?」
「じゃあ、もう一々僕に感熱紙の場所訊いてくるの止めて下さいね」
「う。……あれ覚え難いんだよなぁ……」
「どこがですか」
頭を掻くマスターに、突っ込んだのは恭祐君。
僕は皿を取って、恭祐君と一緒に店へ戻る。
此方を振り向く惣に小さく笑いかけ、僕はせっせと仕事を再開した。
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