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細い綱渡り

「よう惣! 今日は呑もうぜーっ!!」
「……はぁ」


キャンパスで遭遇し、テンション高く突撃をかけてきた圭也にため息を吐いた。

走ってきた圭也の後ろから少し遅れて、同じ学科の依月が駆けて来る。


「ちょっと圭也、いきなり走り出さないで……あっ、惣」
「よう」


俺を見て初めて気付いたみたいなリアクションをする依月に、苦笑いしながら右手を挙げる。

圭也はキャンパスで俺の姿を見付けて走ってきて、依月は訳も分からずそれを追い掛けてきたのだろう。

走って来たらぜぇぜぇと息が切れたらしく、暫し息を整えていた圭也が復活して、もう一度明るく「呑もうぜーっ!」と叫んだ。煩い。この近距離なんだから叫ばなくても聞こえてる。


「俺も依月もバイトないからさ、レポート終わった記念にって」
「それはお前らの学科の都合だろうが。……まぁ、俺も今日はバイトはないけどな」


そして幸いにも、〆切の迫ったレポートも課題もない。俺と二人とは学部もカリキュラムも違う為、レポート課題などで忙しい時期がズレてなかなか集まれない時もあるのだ。

俺も、三人でぐだぐだとくだを巻くのが嫌いな訳ではない。

いつも唐突な圭也に軽くデコピンを喰らわすと、無理せず走ってきたのか息切れはしていない依月を振り返る。


「家でいいのか?」
「うん。よろしくお願いします」
「…まぁ、いつもの事だし構わない」


二人きりではなく、圭也も含め三人なら……アルコールが入っていても理性の心配をする事にもならない筈だ。

この時間なら、駅前のスーパーも余裕で開いている。安い酒と、つまみでも買って帰るか。


「……ちなみに、言い出しっぺの圭也が多めに出してくれるそうだ」
「へっ?」
「わーい、ありがとー。流石圭也、太っ腹ー」
「ちょっ、惣さん!? 依月さん!?」


俺が思い付きで口にした軽口に依月が乗り、圭也は目を白黒させる。

依月と一緒にケラケラと笑いながら、俺たちはぐだぐだと駅前のスーパーへと歩き出した。


「俺薄給のコンビニバイトだから、あんまり金ないのに!」
「僕だってそんな高給じゃないよ、みんな同じだよ」
「深夜居酒屋の惣の方が金持ってるって!」
「俺はそんなに頻繁にシフト入ってる訳じゃないからな。みんな同じだろ」
「同じなら何故俺が多く払うの!? ねえ!」


言い出しっぺだからな。

何だかんだと文句を言いながら、ちゃんと端数+α分多く出す圭也は、嫌いじゃない。


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