[携帯モード] [URL送信]

未知なる世界



……ダンッ。


壁に手を付いて、息を整える。


「今日は厄日か、チクショウ」


占いなんて見てないから知らないが、きっと俺の運勢は最悪だったに違いない。

そうじゃなきゃ、一日に二回も逃げることにはならないだろ、普通。

あの靄を目にした俺は、一目散に家を出た。本当は、自室に逃げ込みたかったが、仕方がない。
……だって、追って来られたら、逃げらんねぇじゃん。

ゆっくりと息を吐く。


「アレは気のせい、アレは気のせい……」


目を閉じて、自分自身に暗示をかけるようにブツブツと呟く。

端から見たら危ない奴だろうが、今は俺しかいないから、何の問題もない。ノープロブレム、だ。

気のせい、ってことにしないと、この先普通に生きられない……そんな気がする。


「……よし、戻るか」


そう、力を込めて、壁から手を放した……その反動で俺の体は一歩、ほんの一歩だけ、後ろに退がったんだ。

そして、俺は今尻餅を付いている……今、目の前にいる真っ黒な生き物のせいで。

俺の隙を窺ってやがったのか、何なのか……ヤツは背後から凄い勢いで俺に飛びかかろうとした。けれど、一歩退がった……そのおかげで、ヤツのその攻撃をかわすことができたんだ。


……つまり、全部ただの偶然だ……。


その事実にゾッとする。
目の前の鹿みたいな頭に、猿みたいな体をした生き物……何でだか説明はできないが、俺はコイツがあの黒い靄だと確信している。
本当に、妙なことではあるけれど。


「キシャアァァァッ」
「ッ!?」


現実逃避していると、目の前の生き物が、突然雄叫びを上げた。それにビクリと体が震える。

立って逃げたくとも、足が震えて力が入らなかった。

ピョンピョンと跳ねて、壁から離れたヤツは、体を俺の方に向け、態勢を低くした。


マジでヤバい……!!


逃げたい。
怖い。
見逃して。
何で俺がこんな目に。
助けて。


様々な感情が、一気に押し寄せた。

そんな俺の状態などお構いなしに、ヤツがビュン、とこちらに飛びかかるのが見え、ギュッと目を閉じた。


――……パァン。


破裂音が耳に届き、ビクッと震えた後で、恐る恐る目を開けた。



[*前へ][次へ#]

5/7ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!