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あなたの為に(当て馬・平凡受け/美形攻め/三角関係)
綺麗な綺麗な顔をしたあいつには唯一苦手な分野があるんだ。
俺は発見した。

「清良君が?ないよないよ!あいつに隙なんてあるわけねーよ!ー文武両道、完全無欠を地でいってる清良君だよー?」
粗探しするにも時間の無駄だって、と平凡仲間が言うけどさ、俺は知ってるんだもんね。

清良唯一の、苦手分野。
そう、それは―…


「洋平せーっんぱい!」
「豊か…」
「はい、あなたの豊です!」
「…馬鹿だな今日もお前は。」
キャーッ!!洋平先輩今日もマジ格好良い!涙黒子超絶セクシー!!普段笑わない美形が微笑むのってプレミアム感半端無いなぁ…!
デロデロに溶けただらしない顔を曝しながら、愛情込めて作った弁当を開ける。
今日は和風四段弁当だ。洋平先輩は基本的に和風好みだし、失敗は無い筈。
「目玉は海老と鶏肉の柚胡椒仕立てです。先輩前好きだって仰ってましたよね?」
「ああ、あれは上手かったな。…今日も美味そうだな。」
「えへへ、美味しいですよっ!まぁ僕くらいの料理上手になるとこの位朝の5分でチョチョチョイのチョイッ!ですけどねーっ!」
ガシガシと頭を撫でてくれる先輩の掌に鼻の下が伸びる。
薬指の絆創膏は見ないフリしてふふふん、と胸を張りながら、ね。
見えてないよね!?洋平先輩側から絆創膏指見えてないよね!?

「清良も作って来たのか?」
「…っや、くそくしていたからな…一応…」
ス、と差し出された小さな小さな可愛らしいサイズのお弁当。開くと、
「……」
ズラリと並んだ黒(ノリか…?)茶(唐揚げか…?にしては骨骨しいが…)に埋め尽くされている中身。

色味ある具材が皆無だ…!!!
洋平先輩の口が開いたまま塞がらない。

おいおい女子高生のダイエットメニューでももう少しマシな中身だろう…!量少ない上にゲロ色もんばっかりとかありえねええええ!!

「す、すまない、俺は料理がどうも苦手で…、」
きゅう、と唇を固く結び、頬を真っ赤に染める清良。
そうそうそう、そうなんですよ奥さん!完全無欠ロボッターにも苦手なものがありまして。
それが料理!
俺は直ぐそこに目をつけ、他では勝てない分料理技術だけは上げようと必死になったよ。
土日には料理教室に通ったし、放課後も部活終わってダッシュで帰ってから家で試行錯誤を繰り返し料理について研究した。

努力も実り、そんじょそこらのママさんレベルまでには上達したとは思うんだけど…。
たまーに千切りなんかで指切っちゃうのは愛想で許して欲しい。

だって、じゃないと清良に勝てるところ無くなっちゃうじゃん!こいつと俺を比べて勝っている部分なんて全く…まっっったく無いんだから。だから清良の料理ベタに気付いた時は両手挙げて喜んだね。
卑怯?そんなもんは恋愛においては関係なし!ただえさえ俺と清良はポテンシャルが違うんだから。
清良のマイナスポイントは俺がどんどん上げておかないと…!

「お前なんだよそれ!食えないじゃん!人間の食うモンじゃねーし!」
ギャハハハと清良の弁当を指差しながら笑うと、清良の常時つり上がっている眼がしゅん、と下がる。心なしか目の端には涙が浮かんでいる。

「お前自分で食えよなそれ!先輩が腹壊したら―「豊。すまない、今日はお前の分はクラスの奴と食ってくれないか?」」

(…え?)

「今日は清良の飯だけで腹いっぱいになりそうなんだ。」すまないな、とゆるく髪の毛を梳かされると、先輩は清良の方へ真っ直ぐ向き合って

「…美味そうだ。有難う、清良。」
その指で、清良の右頬を撫でた。
清良が擽ったそうに、やめろ、と指を軽くはね退ける。
頬から首筋にかけて真っ赤に染まっている。
洋平先輩はそんな清良の態度にクスリ、と微笑を漏らすと可愛いなお前は、と小さな声で呟いた。


見て…られない。
「…おれ!おれ、…教室戻ります!クラスの奴らが、飯食う前に、あげないと!」
この弁当。
弁当を片手に、スクッと立ち上がると先輩がああ、また明日な、と優しい、変わらない目で声をかけてくれた。

優しい、優しい先輩。

「はい、また明日!」

(ハァ、ッ―ハッ…、)

風呂敷に包んだ弁当を片手にバタバタと廊下を走る俺。息が切れる。目の前が真っ白だ。なんで?どうして?

ぼた、ぼた、ぼた。
ああ涙か。涙で目の前がぼやけてるんだ。

「いて!!」
闇雲に走っていたせいでコンクリートの柱に見事真っ向からぶつかってしまった。その拍子に4段重ねの弁当が風呂敷から飛び出し、見事にばら撒かれ、落ちる。

「…あーあ。」
俺馬鹿みたい。清良に劣っている部分なんてなかったんだ。料理が下手なのも、清良にとったらプラスポイントで。
俺がどんなに料理が上手くなっても意味なんてなかったんだ。下手でも上手でもそこに意味なんて―…。

「う、う、〜…う、う、…ッ…!」
辺りに広がる柚胡椒の香りが、目と鼻に染みた。






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あきゅろす。
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