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永遠の片思い2(平凡受け/美形攻め/不倫愛/アラサー)
―如何して、何で此処に。

口を半開きにしたまま、目線で訊ねるとああ、と両手を軽く合わせ、叩く透。
「店、行ったんだけど。スグル、帰ったって言うから。」
「あ、うん」
「でも今さっき抜けたばっかりだって聞いたから…急いで後追って来たんだよ。」
「え…」
でも見当たらないし、挫けそうになったよ、と透が笑う。

変わらない、あの頃に戻った様にふんわりと微笑む透に錯覚を起こしそうになる。マジマジと見詰めると、変わっていないようで少しの成長が分かる。二十八歳にもなって成長、という表現は奇妙かも知れないが。

顔の造形自体は余り高校時代と変化は見られないが、頬の輪郭が少々シャープになっている。頬に沿って流れる横髪が中性的な雰囲気を醸し出していた。

変わらず、秀麗な様だ。

「相変わらず可愛いなぁ、スグル。」
「な…」
「可愛い。」

俺に「可愛い」なんて形容詞を使うのはただ一人、コイツくらいだ。
ブサ可愛い犬を指差され、あれに似てる!ブサカワ系だよねスグル君!と満面の笑みで透ファンに嫌味ともとれる発言を食らった経験はあったが・・・。
髪を容れず、「いいや。あの犬は不細工可愛いかも知れないけど、スグルはただ、ひたすら可愛いよ。」
間違わないでね、と侮蔑にも似た眼差しをその女子に送るものだから。なぜか矛先が俺に最後は来ちゃうのがよく分からなかったけど…。もういいんだ。ハイハイ、俺が全部悪いですよーだ。
と、いう様にあの時代はだいぶ自虐ネタに走っていたなぁ・・・。

ベンチに座った俺の頬に、透の指が触れる。冷たい温度が熱くなった頬に心地好かった。

(止めて欲しい…)

あの頃の様に、同じ瞳で、同じ口調で、同じ台詞を紡がないで。
流されそうになる心を塞き止める為、ふい、と視線を逸らす。
未だ頭上からは透の視線をジクジクと感じるが、敢えて意識を分散させたまま言葉を続けた。

「久しぶりだね、マジで。」
「うん、…スグル、何も言わず向こうに行っちゃったから。」
「…大学の、都合が…」
「そっか。…携帯電話も繋がらないし、俺嫌われたのかと思ってさ。連絡出来なかったんだ。」
「む、こう…で買ったから…」

声が震える。
上手く話せない。治まっていた動悸が再び、速くなる。
透に自覚はあるのだろか。酷い台詞を吐いているという自覚が。

俺が逃げ出した理由を重々、知っている癖に。俺が日本から、この街から、―お前から離れた理由を全て理解しているくせに。

もう過去の話だから、そんな風に笑いながら話せるのお前。


「用事、ある…から俺、帰るね」
「え?」
「用事あったから抜けたんだ、俺。早く、帰らなきゃ…」

透が来るから帰ったんじゃない。
用事があるから、抜けたのだ。自分に言い聞かせるかの様に心の中で呟く。透の目を見ないまま、立ち上がると、肩に重みを感じた。透の手だ。

「待って、もう少し話そうよ。」
「ごめん、俺…急いでるから…っ」
「スグル…」
強引に身体を引くと、震える足で駆ける準備をする。掌に力を入れると、手首を強い力で掴まれた。

「待って、スグル!」
「…!!」
グイ、と両肩を掴まれ、無理やり正面を向かされる。
近い距離で見る透の顔に、心臓が悲鳴を上げる。

透の澄んだ瞳に俺が映っている。如何し様も無い感情が俺の全身を駆け巡った。
心が、壊れる、破壊される、グシャグシャに握り潰されてしまう―。

(パキン!!)

「あ…」
「ス・・・グル、?」

開いた眼から、ポロポロと大粒の雫が落ちる。
我慢出来なかった。だって透、お前が変わらないから。どうせなら変わっていて欲しかった。奥さんの自慢でも始めて欲しかった。

どうして、変わらない瞳で俺を見るの。また勘違いしそうになるじゃないか。

「う、く…!」
「どうし」
「お前、ひど、酷い…っ」
「え…」

「酷いよ、お前、狡いよお前…!俺だけずっと…!」
「スグ…」
「俺だけ、俺だけ…!」

(俺だけ、お前に囚われたままなんて、滑稽だ)

「スグル…!」
「―!!!」

ぎゅう、と痛い程に透に抱き締められる。肩に透の吐息を感じ、余計に泣きそうになる。

透の腕の中で必死に藻掻く。止めて、と声にならない声で叫ぶが、透の力は弱まらない。

「止めろ、離せ!」
「嫌だ、…!」
「っ離せ、はな…離して透、お願い…っ」
「嫌だ!!」
腕を解くと、次に透は俺の両頬を手の平で包む。少々上の位置に在る透の顔が敏速に迫ると、容易く俺の唇を奪った。


「―〜・・・・・・ッ!!」

重なる互いの唇。
透の行動に驚愕し、目を見開く。何だコレは。俺は夢を見ているんじゃないか、だとすればいつから夢なんだろう。

「ん、んう、〜・・・!!」
「ス…グル、ん、・・・ッ」
深くなる其れ。透の舌がぬるりと口内に遠慮無く侵入してくる。

「ん、だ…だめ、とお、」
「いいから」

吐息さえも奪う様な透の熱い接吻に正常な意識が飛びそうだ。絡む舌の間に必死に言葉を発しようを試みる。だが透は俺の後頭部に掌を支える様にして置くと、次は己の体重を俺に押し付けて来る。

透に支えられて居る為、身体が倒れる事は無かったが、透からの執拗な接吻に抵抗する力が一段と薄まってしまう。

こんな透は知らない。
こんな、自分の意思を強制的に押し付けてくる真似をする男なんて知らない。
透はいつも俺の意思を尊重してくれたし、何より透のこんな激情に溢れた表情なんて見た事が無かった。

「ん、…」
コクリ、と唾液を飲み込む音。
漸く唇が離れると、目前にある透の唇が唾液でテラテラと光っていた。

「…と…、る?」
「っ…、俺はもう嫌だ。スグルが離れて行くなんて、スグルを失うのはもう…」
「だってお前…お前、俺の事…」
脳内であの日の情景が流れる。
俺の告白を最後まで聞きもせず、去ったお前。



「好きだった。―誰よりも、愛してた。」
「う…そ…」
「本気で、愛してた。ううん、今も…」
透の瞳が、離される。トレンチコートから覗くスーツのネクタイに一瞬、目を遣る。

そして軽く瞳を閉じると、今も、と続く。

「今も愛してる。」






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あきゅろす。
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