Dream
殺人考察(前)U
高校生になっても私の環境に変化はなかった。
周りの人間は同級生であれ上級生であれ,私にはちかよらなかった。
理由は分からないけど,たぶん私は思っていることが態度に出やすいのだろう。
私は極度の人間嫌いだ
子供の頃からどうしても彼らが好きになれなかった。
救いがない事に私もその人間なので,自分でさえ嫌いなのだ。
そんなんだから,私は人に話しかけられてもあまり親切にできない。
1ヶ月ほどで周りは私に関わろうとするものはいなくなった。自分でも静かなほうが好ましい。反対にその周囲の反感はとても嬉しかった。
理想の環境を手に入れた,そう思った。
しかし,同級生の一人だけ,私こと両儀式に友人として接する生徒がいる。
黒桐幹也。
フランスの詩人めいた名字のその人物は私にとってとにかく邪魔だった。
そう。本当に邪魔だったのだ。
******
「式,最近何かあった?」
突如私にそう尋ねてきた少女こと佑月和は人間嫌いの私の唯一の幼少時代から友人と言える存在だ。どこか惹かれる,不思議な人物。
今はその和に宿題を教えてほしいと頼まれ私はテーブルを挟み彼女の前に座っている。
そんな彼女は当時7歳の時,何者かによって佑月の屋敷に火を点けられ,両親その他全ての血縁者を失い天涯孤独の身となった。
犯人は未だに見つかっていない。
その和を快く引き取ったのが,佑月と古くから深い繋がりがある両儀だった。
そして私と和は一緒に暮らすようになり,今に至る。
「何か,って特に…」
そう言いかけ,ふと脳裏に過ぎるのはあの無防備な笑顔を浮かべた,唯一私に普通に接っしてくる…。
「やっぱり。それで,何があったの?」
宿題なんてそっちのけで和は興味津々に目を輝かせている。何を言っても引いてくれそうにない和に私は渋々,黒桐幹也について話すことにした。
******
高校生になって式は変わった。変わったと言っても特に目に見えて外見や性格が変わったとかそういう分けではない。
何だろう…。こう,何て言うのかな。うまく言えないが雰囲気?というのか。
兎に角式は変わったんだ。
「コクトウミキヤ…」
先ほど式から聞いた人物の名前を復唱する。
どうやらここ最近式が変わったのはそのコクトウミキヤっていうクラスメートが原因らしい。
自然と口元が緩むのがわかった。もちろんそれを見逃さなかった式は軽く眉間に皺を寄せた。
「何がおかしいの和?」
「いや,だってさ。この何年間式が友だちの話してくれるなんてなかったから。なんか嬉しくなって」
「友達なんかじゃないわ」
迷いなく一刀両断し,機嫌を損ねたのか,式は険しい顔でそっぽを向いてしまった。
「どうかな〜。話し聞いてる限りそのコクトウくんは相当式のこと好きだよ」
「私は嫌いよ」
そんなこと言ってる式だったが,本当に嫌いだったら式のことだ,話すことすらしないだろう。
私にそのコクトウくんの話をしている時の式の顔はどこか活き活きしていた。しかし,今までは私だけが見ていられた表情を今は他の人にも向けている,それは人嫌いな式にとって大きな進歩のはずなのに,そう思うとなんだか寂しいようなそんな感情が少しだけ湧いた。
「私もコクトウくんって人にあってみたいな」
「なんで和が会う必要があるの」
「これからも式と仲良くしてあげてくださいって」
その言葉にどこか式は納得していないような顔をしていた。
「私は…別に友達なんて…和が,…居てくれれば…」
「ん?何か言った式」
俯いて何かをぼそっと言ったのはわかったが内容まではよく聞き取れず式にもう一回,とせがめば,彼女は頬を少し赤らめて,突如勢いよく立ち上がった。
「なんでもないわっ。それより,早く宿題仕上げなさい」
そう言って式はすたすたと私の部屋から出て行ってしまった。
私は今だ一問も解けていない数学のワークに目をうつす。
「やば…。間に合うかな」
ガクっと私はテーブルにうなだれ,溜め息をついた。
「コクトウ…ミキヤ…か」
私がその人物と出会うまでそう遠い未来ではなかった。
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