さよなら、嘘つき(1)
※現パロ
ゆっくりとドアが開いた。中から微かに怒りを露わにした栗色の髪の男が顔を出した。そして俺もこいつに対して頭にきている。
「何しに来たんだ」
「何しにって、お前こそなんだよ。何で今日来なかったんだよ。今日テスト明けに5人でお好み焼きするって言ってただろ」
前々から約束していた試験の打ち上げ。しかしこの男、鉢屋三郎は現れなかった。
「行けなくなったんだよ」
「何だよ。俺らのが先約だろ」
「やけに突っかかるな。聞いてどうする。もう終わったことだろ。お前そんなに5人でやることにこだわる質だったか?」
「お前こそなんだよ。最近俺のこと避けて…それが『友達』に対する態度かよ」
俺の怒りの原因は別に今回のこと云々ではない。事の発端は4日前に遡る。事件現場はこの家だ。俺は三郎と2人で試験勉強をしていた。そして息抜きがてら三郎の棚を物色していた時、珍しいものを発見したのだ。
その珍しいものとは、ゲイビだ。
何でゲイビが、と思ったがすぐに罰ゲームか何かで借りたのだろうと解釈した。俺は三郎が少し動揺していることにも気付かず初めてみるパッケージをじっくりと観察する。AVみたいなもんかな、と少し好奇心が湧いた。
「観てもいい?」
「なんで!!」
「気になる」
「男二人でゲイビ観て何が楽しいんだ!確実に気まずいだろ!」
「俺、大丈夫だよ。笑ってやるよ」
「お前が大丈夫でも俺が大丈夫じゃないの!!」
三郎は我に返ったような顔をし、おもむろに目線を外した。ちょっとした遊び心であったのに、何だこのお通夜のような雰囲気は。
「さ、三郎…?いいよ。悪かったな。ヒマつぶしのつもりだったんだ。続きするか」
そう言ってデスクに戻り、筆記具を持つ。あーどこやってたかな。確か3章から…、頭を勉強モードに切り替える。カリカリと自分のペンの音だけが、室内に響く。
三郎が動かない。どうやらあいつのお通夜は終わってないようだ。そんなにゲイビって禁句だった?知らねえよ。なら隠しておけし。盛大に溜め息をついた後、声をかけようとしたが先に口を開いたのは三郎だった。
「…俺はお前とそういうことしたいって言ったらどうする?」
いつもより低めの声にどきりとした。
「あ?そういう…まさか、さっきの」
こくり、と頷くだけのサイン。え、俺と三郎が?何、絡むってこと?なんの冗談のつもりだ。だけど、三郎の目は冗談では済まないほどに真剣だった。
こちらも真剣に返さなければいけないほどに。
「…ないだろ。俺ら友達だし、ていうか男同士だし。」
背筋に緊張感が走る。心拍数があがる。三郎の目に悲哀の色が浮かんだ。ばーか冗談だ。っていつもみたいに笑うあいつを必死に想像した。
「そうだな。友達だもんな。悪い、忘れろ」
想像とはあまりにも違う優しい声だった。その声に俺の方が泣きそうになる。俺の異変に気付いたのだろう。三郎はぱっと表情を変えいつもの笑みを浮かべ、俺の頭を盛大にど突いた。
「だからっ忘れろっつーに」
「…っだ、いてぇし!」
2人で目を合わせて鼻で笑った。良かった。忘れていいのか。今までどおり友達だ。良かった。その日は三郎もいつも以上に機嫌がよく、たくさん笑った。俺もその雰囲気につられて笑顔になった。そう、いつものように。
しかし次の日から三郎は明らかに俺を避けだしたのだった。
1116
続きます。
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