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階段



現パロ
大学生くらい
別に読まなくてもまったく差し支えないですが、下の「面倒な奴」の続きくさい




昼から入ってた授業もすべて終わり、休憩室でブラックコーヒーとチョコを味わいながら疲れ荒んだ心を癒やす。


楽しい楽しいゴールデンウィーク




んな訳ねーだろ、ぼけ
受験生には休みはないとかなんだとか、わかりますよ。受験生はね、1分1秒が大切ですもんね。でも俺は?俺ただのしがない塾講師、しかもただ時給が良いのと兵助に会える時間が少しでも増えればという理由でここで働いてるやる気なんてまったく持ち合わせていない塾講師。ガキの進路とかぶっちゃけなくてもどうでもいい。

しかし、この俺の想いとは裏腹に、兵助とはシフトがほぼ被らない。同じ日に辛うじて入っても上がりが違う。故に終わった後、飯を食べることすら出来ない。

兵助は俺と違ってやる気もあるし、最近生徒がよく質問に来てくれるんだ。なんて嬉しそうに報告していたけど、慕ってるんじゃないからね、兵助さん。下心丸出しのくそガキだからね。兵助は自分のことに関することはとことん勘が鈍るようだ。

それに加えて、兵助は仕送りが少ないので週5でシフトに入っている。結果俺達がゆっくり会える時間はほとんど残されていない。兵助が上がるまであと3時間。お互いが親密な関係であることは勿論周りには秘密にしている手前、待っているのも不自然である。


いや…実は前待ってたんだけど、兵助さんに怒られたってのが真相です。いや、それはナシだろ。って…




「帰るか…」

重い足をゆっくりと起こし、少し暑いが、ジャケットに袖を通す。
生徒達と顔を合わせるのを面倒に感じ、いつものようにエレベーターは使わず、あまり使われてない講師室側の階段を使うことにした。

カツカツとヒールを鳴らし、一つ一つゆっくりと階段を降りる。少しでも兵助と会える可能性を増やす為に。兵助はまだ授業中で会える訳ないと頭では理解しているのだが、本能がそうはさせてくれないようだ。


「あ」

小さく聞こえたその声は俺がずっと頭で反芻させていたものと同じで、本能で求めていたけれど、今聴けるはずもないものだから、俺の欲望が生んだ幻聴であろう。
しかし視覚までも、それを捉え幻聴では無かったと理解する。

「鉢屋」

「へいす」

「久々知、だろ。」


そうだ、塾では名字で呼び合うと約束した。変な誤解を受けないようにと。

「なんで、ここにいるんだ?」

「あ、生徒達に配るプリントが足りなくてさ。コピーしにいくんだよ」

「そっか、なんか久々だな。バイトで会うの」

「そうか?あ、俺行かなきゃ。まだ授業中だし」

え、兵助さんつれなくないですか。ずっとお前のこと考えてたのにさ。

「あ、ああ。授業がんばれよ」

なんて理解あるように振る舞って、心が矛盾に耐えきれなくて。

兵助が階段を上がっていく音を耳で感じながら、またゆっくりと階段を降りだす。

はあ、とひとつ溜め息を落とすとなぜか急に俺の都合の良い頭が、兵助がこちらを見ていると認識した。
期待せずに上を見上げると


兵助がこちらをみていた。


「三郎、」

おとすぞ、とれよ。


それはキーホルダーも何もついていない鍵だった。

「そこで待ってろよ」

俺んち、わかるよな?




「わかんねー訳ねーだろ」

「ん、じゃまたあとで」

あとで

いつか

同じ3文字なのに、こんなにも違うものか、言葉というものは不思議だ。たった3文字で俺の心は幸せで満たされている。


「ばーか、塾では"鉢屋"だろ」

階段




兵助が階段を登る音に耳を澄ませると、音がこだまして心地よく


荒んでいたはずの俺の心に染み込んでいった。




0505
「また、あとで」それは確かな約束





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あきゅろす。
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