スコールと電車
※現パロ、高校生
突然のスコールだ。
俺はこんな雨は嫌いではない。それどころか無性に心が浮かれた気持ちになる。少し待てばきっと止むであろうと分かっていても弾んだ心を抑えることはできず飛び出してしまう。若さ故の至りか、待つことは不可能なのだ。
傘も差さず俺達は駅に向かって駆け走る。先程までの焼けるような日差しで火照っていた体にはこの雨がひどく心地いい。額から汗か雨か、何かが垂れて目に入った。ひとやり目を擦ると兵助はひどく前方を走り抜けていた。
「…ちょっ兵助!!はっええよ!!」
こちらをちらりと見、何かぼそりと口を動かしたが兵助の意図が汲み取れることはなかった。(おせぇ、と言われた気がしないでもないが)
そのまま兵助は米粒のような小ささになった。
「兵助…はえ…えよ…」
「お前だって元運動部だろ。」
「幽霊部員だけどね…」
駅に着いて一呼吸置いてもなかなか俺の心臓は落ち着かない。熱心な陸上部の兵助とは違い走り込みなど殆どしたことがない俺には全力疾走は無理です。
「しっかし濡れたな…」
「…兵助さんセクシャルですね」
「黙ろうか、三郎」
薄い冗談に付き合うことなく、兵助は首筋を濡らす汗と雨の混ざり合わさった水滴を拭う。
その仕草が性的なんですって分からないんだろうか。
ベンチに腰かけ、その動作に魅入っていたら視界が急に明るくなり、兵助の顔に影が差した。
空を見上げると先程までのスコールは止み照りつけるような太陽が再び俺達に攻撃を開始した。
「うえ、駅着いた途端止みやがった」
そんな太陽を見ていたら、ふと夏だ。と実感した。そうだ、夏か。もう3日もすれば夏休みではないか。
「…夏休みか…」
俺の気持ちが伝わったのか、兵助はポツリと呟いた。
「夏休みですねえ。どこ行きますか?海?」
「うん」
「花火」
「うん」
「お祭り」
「うん」
「…コンビニ」
「うん」
「何、その反応!兵助は俺との夏休み楽しみじゃないの!」
「そういう訳じゃないんだけど」
じゃあ何で、と言いかけた時丁度電車がホームに到着をした。その電車はいつもの見慣れた色ではなかった。昔はよく乗っていたが最近はあまり見かけなくなってしまった旧型のボックスタイプの電車だった。この電車がまだ存在していたことに俺は少しだけ感動を覚えた。
珍しい時間だったからか人も疎らでボックスは二人だけで悠に使うことが出来た。
向かい合わせに腰を下ろし、窓のついたてに頬杖をついた。
いつもと同じ線路のはずだが、その窓から見える景色になぜか目を奪われた。何か終わりのない、どこまでも続くレールに乗り合わせた、そんな心地がした。
「…これ何処まで行くんだろ」
「さあ…、」
くだらないニュースが流れる電光掲示板はなく、あるのは古ぼけた紙の路線図だけだ。何処まで行くかは解らないが、3駅で俺達の駅に到着してくれるのは間違いない。
この不思議な気持ちも3駅分の儚いものに過ぎない。
「…いこっか」
兵助が急に言葉を発した。
「は?」
「いこうよ。この電車の終点まで。俺、夏休みまで待てそうにないから」
―兵助は俺との夏休み楽しみじゃないの?
―そういう訳じゃない。
俺はお前とだったらどこだっていいんだけど
「やだ?」
「…やな訳ねえだろ…」
「ん、じゃあそういうことで」
カタコトと揺れる列車の音がした、ふと胸の高鳴りも同じ速さだと感じた。雨の匂いが鼻をくすぐり、つい頬が緩んだ。
若いから
待てないんだよ
お前との夏が
「あー夏最高」
スコールと電車
「おれ夏キライ。暑いの無理」
「…兵助さんムードって知ってます」
「お前と俺にムードなんかあんの」
0614
夏はもうすぐ!
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