コーヒーと価値 ※現パロ 竹久々前提鉢久々 竹谷かわいそう 大学の近くにある小さな古い喫茶店。一番奥の喫煙席が俺の特等席。客も大抵2、3人と少なくこの店の経営状況を危惧する毎日だ。しかしその気持ちとは裏腹に、この店で一番安い別に美味くもないコーヒー350円を学校帰りに飲む。それが俺の日課。 今日はそれに加えチーズトーストを買った。俺の気に入りの坊主の店員がいたから。こいつが作るチーズトーストだけは美味い。アルバイトの女の子はダメだ。この前など、トーストが2つに切れてなかった。味以前の問題だ。 カランとひとつ鐘がなった、冬の冷気と共にひとりの客が入ってきた。 「さみ、あ、何飲んでんの」 「いつもとおんなじだよ」 「ああ、くそ甘いコーヒーか」 「うっせ、お前のにげえのよりマシだ」 これも習慣のひとつ。毎週火曜日は兵助がいつもこの店にやってくる。なんで火曜日なのかは知らないけど。 「最近どう」 「別に。…で、兵助さんはどうなの?って聞かれたいんだろ」 「バレた?」 いつもどちらかといえば口数は少なく、人の話を聴くことが多い兵助だが、なぜかこの日だけは饒舌になる。 「竹谷とキスした」 「…だから」 「したけど、まったく何も感じなかった。」 「…お前…ひど…」 この男、久々知兵助はずっと竹谷のことが好きであった。竹谷も兵助が好きで両想いなのにお互いウジウジとしていた。付き合うと報告をうけたのは、兵助から最初に相談をうけた日から実に7ヶ月もの月日がたっていた。 「あんな長いこと好きで念願のチュー?何が不服なんだよ」 「別に竹谷に不服なんかない」 「なんなの、お前?不感症?」 「死ね」 はあ、なんで俺こんなにこいつの相談にのってあげてんの。俺ってちょー良い奴。まじ良い奴。 「鉢屋には何でも話せるのにな」 「そりゃ竹谷に「あなたとのキスは何も感じません」なんて言えるわけねぇだろ」 「鉢屋は楽なんだよ、何にも気にしないで喋れる」 「そうね、ただの友達だものね」 「俺、鉢屋と喋る方が好きなんだけど。俺が鉢屋に対する好きは何なんだろうって思うんだ。恋愛?違うよな?俺は竹谷が好きなんだよな?」 …ほんとこいつ何言い出すんだろう… これを本当に本心で言ってるから厄介だ。俺が「違うぞ、お前は俺のこと好きなんだよ」って言えばいいのか、はは、とんだ茶番だな。 「竹谷といるとさ、嫌われたくないとか、これは言わない方がいいとか、いろいろ考 えすぎて面倒くさくなっちゃうんだよな。もう恋愛めんどくせ…って」 「そりゃ、好きだからだろ。結構なことじゃねえか。お前は恋愛が面倒だから竹谷も面倒になっただけだ。そんなんじゃ誰と付き合っても同じだ。」 「俺は一緒にいて楽なやつがいい。面倒じゃない奴と恋愛がしたい。もともと恋愛なんて重点に置いた人間じゃない。」 「恋愛が面倒な奴は誰と付き合っても面倒になる」 「でも鉢屋といるのは面倒にならない」 (そりゃ友達だから、面倒にならないだけ) 頭に浮かんだことを口にはださなかった。 俺と兵助は性格は違えども価値観が似ている。 そこが、問題なんだよ。 「…なあ、兵助。俺とキスしてみようか」 これは博打? いや、違う 「利点は」 「俺とのキスは何か感じるかもしれない。感じたら、お前は不感症ではない。」 兵助がなんと答えるなんて、俺には手に取るように分かるんだ。 「…いいよ。してみよっか」 キス?そんなの好きなやつとするもんだって? なら、問題ないじゃないか。兵助は俺が好きで、俺も兵助が好きなんだから。 俺は口内に広がる甘い唾液で唇を舐め、あいつの下唇を挟むように舌でゆっくりと味わいはじめた。 一口しか口にしてない350円のコーヒーはもうすっかり温度をなくしてしまったようだ。 コーヒーと価値 好きに種類なんて、ねえんだよ。 兵助は鉢屋が人間として好きで、恋愛感情はないと思ってる。でも鉢屋が誰よりも安心できる存在なのは確か。でも、よくわからない。鉢屋はそれを解った上で兵助が好き。お互いいないと困る存在 [*前へ][次へ#] [戻る] |